『科学立国の危機:失速する日本の研究力』読売新聞書評

豊田長康
(2019年2月14日刊行,東洋経済新報社,東京, 536 pp., 本体価格2,600円, ISBN:9784492223895目次版元ページ

読売新聞書評:三中信宏「人的資源の確保不可欠」(2019年3月10日)が〈本よみうり堂〉で公開されました.



人的資源の確保不可欠

 著者は以前から自身のブログ<ある医療系大学長のつぼやき>を通じて、日本の科学の行く末には暗雲が垂れこめていることを数々のデータを踏まえて力説してきた。その延長線上に出版された本書は膨大な関連証拠の分析をふまえ、日本の科学研究を支える経済的および人的基盤が諸外国と比べてありえないほど無残に切り崩されてきた現状を読者に突きつける。ときどき報道される大学の世界ランキングはもちろん、出版された科学論文数とその影響力から見ても、日本の科学研究力は欧米や中国は言うまでもなく、近隣アジア諸国にさえ追い抜かれている。

 

 わが国の科学が直面する深刻な現実と科学者たちの怨嗟の声がぎっしり詰めこまれた本書は、500ページ超という厚さにもかかわらず、読む者を惹きつけて離さない。法人化以降、大学への運営費交付金が年1%の定率で削減された影響は、教員数の削減や研究時間の減少となって現れた。同時に、過度の「選択と集中」方針が徹底されたことにより大学間の格差がさらに広がった。しかし、イノベーションの広がりにとっては、裾野に位置する中小大学への積極的支援が必要だと著者は言う。

 

 科学研究を実際に遂行する時間割合によって換算した人的資源すなわち「研究従事者数」を確保して国際研究力を上げるためには「ヒトとヒマへの公的な投資が不可欠」と明言する。そのためには、設備費だけでなく人件費を適切に充当しないことには埒が明かない。こんな自明な理屈が現代の日本では不思議なことにまったく通らない。実現不可能なスローガンを連呼するのではなく、しっかりした証拠に基づく地に足の着いた政策決定が日本の科学の将来にとって不可欠であると著者は言う。

 

 本書に含まれる200枚あまりの統計データ解析図表は著者の主張を支える論拠となっている。本書は、当の科学者はもちろんのこと、科学を支える政策立案者にとっても貴重な情報源となるにちがいない。

 

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年3月10日掲載|2019年3月10日公開)

『ナチスから図書館を守った人たち:囚われの司書、詩人、学者の闘い』目次

デイヴィッド・E・フィッシュマン[羽田詩津子訳]
(2019年2月28日刊行,原書房,東京, 16 color plates + 312 + XXII pp., 本体価格2,500円, ISBN:9784562056354版元ページ

【目次】
カラー口絵(16 pp.)
著者覚え書き 7
はじめに 15

第1部 戦前 21

1章 シュメルケ――党員の生活 23
2章 本の都市 32

第2部 ドイツ占領下で 45

3章 最初の攻撃 47
4章 地獄の知識人たち 58
5章 本と人のための天国 71
6章 共犯者、それとも救済者? 85
7章 ナチス、吟遊詩人、教師 92
8章 本のポナリ 102
9章 紙部隊 113
10章 本をこっそり持ちだす技術 123
11章 本と剣 134
12章 奴隷労働者の学芸員と学者たち 145
13章 ゲットーから森へ 157
14章 エストニアの死 172
15章 モスクワからの奇跡 183

第3部 戦後 189

16章 地下から 191
17章 類を見ない美術館 200
18章 ソビエト支配下での奮闘 210
19章 ニューヨークの涙 219
20章 去る決断 227
21章 本をひそかに持ちだす技術、再び 236
22章 ロフルの選択 242
23章 ドイツの発見 251
24章 最後に義務を果たす 258
25章 さすらい――ポーランドプラハ 265
26章 パリ 270
27章 オッフェンバッハからの返却、あるいはカルマノーヴィチの預言 277

第4部 粛清から贖罪へ 281

28章 粛清への道 283
29章 その後の人生 289
30章 荒野での四十年 295
31章 小麦の種子 299

 

訳者あとがき 308

 

原注 [I-XXII]

『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』目次

ウンベルト・エーコ,ジャン=クロード・カリエール[工藤妙子訳]
(2010年12月30日刊行,CCCメディアハウス,東京, 469 pp., 本体価格2,800円, ISBN:9784484101132版元ページ

【目次】
序文 7
本は死なない 21
耐久メディアほどはかないものはない 31
鶏が道を横切らなくなるのには一世紀かかった 63
ワーテルローの戦いの参戦者全員の名前を列挙すること 93
落選者たちの復活戦 115
今日出版される本はいずれもポスト・インキュナビュラである 157
是が非でも私たちのもとに届くことを望んだ書物たち 207
過去についての我々の知識は、馬鹿や間抜けや敵が書いたものに由来している 241
何によっても止められない自己顕示 261
珍説愚説礼讃 283
インターネット、あるいは「記憶抹殺刑」の不可能性 313
炎による検閲 329
我々が読まなかったすべての本 359
祭壇上のミサ典書、「地獄」にかくまわれた非公開本 387
死んだあと蔵書をどうするか 433

 

訳者あとがき 本の世界はあたたかい 452
主要著作一覧 [469-466]

『書物の破壊の世界史:シュメールの粘土板からデジタル時代まで』目次

フェルナンド・バエス[八重樫克彦・八重樫由貴子訳]
(2019年3月22日刊行,紀伊國屋書店,東京, 739 pp., 本体価格3,500円, ISBN:9784314011662版元ページ

【目次】
最新版を手にした読者の皆さまへ 12
イントロダクション 19

第1部 旧世界

第1章 古代オリエント 44
第2章 古代エジプト 63
第3章 古代ギリシャ 72
第4章 アレクサンドリア図書館の栄枯盛衰 89
第5章 古代ギリシャ時代に破壊されたその他の図書館 110
第6章 古代イスラエル 129
第7章 中国 136
第8章 古代ローマ 154
第9章 キリスト教の過激な黎明期 167
第10章 書物の脆さと忘却 177

第2部 東ローマ帝国の時代から一九世紀まで

第1章 コンスタンティノープルで失われた書物 184
第2章 修道士と蛮族 194
第3章 アラブ世界 210
第4章 中世の誤った熱狂 225
第5章 中世スペインのイスラム王朝レコンキスタ 241
第6章 メキシコで焼かれた写本 252
第7章 ルネサンス最盛期 268
第8章 異端審問 286
第9章 占星術師たちの処罰 300
第10章 英国における焚書 307
第11章 厄災の最中で 314
第12章 革命と苦悩 353
第13章 過剰な潔癖さの果てに 377
第14章 書物の破壊に関する若干の文献 387
第15章 フィクションにおける書物の破壊 400

第3部 二〇世紀と二一世紀初頭

第1章 スペイン内戦時の書物の破壊 424
第2章 ナチスのビブリオコースト 443
第3章 第二次世界大戦中に空爆された図書館 476
第4章 現代文学の検閲と自主検閲 487
第5章 大災害の世紀 502
第6章 恐怖の政権 522
第7章 民族間の憎悪 563
第8章 性、イデオロギー、宗教 577
第9章 書物の破壊者 589
第10章 イラクで破壊された書物たち 603
第11章 デジタル時代の書物の破壊 632

 

謝辞 643
原注 [687-648]
参考文献 [724-688]
人名索引 [739-725]