『精密への果てなき道:シリンダーからナノメートルEUVチップへ』目次

サイモン・ウィンチェスター[梶山あゆみ訳]
(2019年8月25日刊行,早川書房,東京, 468 pp., 本体価格3,100円, ISBN:9784152098795版元ページ

サイモン・ウィンチェスターはひさしぶり!


【目次】
図版一覧 9
はじめに 13
第1章 星々、秒、円筒、そして蒸気 40
第2章 並外れて平たく、信じがたいほど感覚が狭い 78
第3章 一家に一挺の銃を、どんな小屋にも時計を 110
第4章 さらに完璧な世界がそこに 142
第5章 幹線道路の抗しがたい魅力 167
第6章 高度一万メートルの精密さと危険 222
第7章 レンズを通してくっきりと 272
第8章 私はどこ? 今は何時? 318
第9章 限界をすり抜けて 342
第10章 絶妙なバランスの必要性について 381
おわりに:万物の尺度 408

謝辞 439
用語集 445
訳者あとがき 455
本書の活字書体について [460]
参考文献 [468-461]

『人体,なんでそうなった? 余分な骨,使えない遺伝子,あえて危険を冒す脳』目次

ネイサン・レンツ[久保美代子訳]
(2019年8月16日刊行,化学同人,京都, xii+286 pp., 本体価格2,400円, ISBN:9784759820102版元ページ

生物体は進化的に “大域最適化” されているわけじゃないもんねえ.


【目次】
はじめに:みよ,母なる自然の大失態を vii
1章 余分な骨と,その他もろもろ 1
2章  豊かな食生活? 41
3章  ゲノムのなかのガラクタ 79
4章 子作りがヘタなホモ・サピエンス 115
5章 なぜ神は医者を創造したのか? 155
6章 だまされやすいカモ 193
エピローグ:人類の未来 243

謝辞 269
訳者あとがき 271
注記 [278-275]
索引 [286-279]

『大英自然史博物館 珍鳥標本盗難事件:なぜ美しい羽は狙われたのか』目次

カーク・ウォレス・ジョンソン[矢野真千子訳]
(2019年8月10日刊行,化学同人,京都, 381 pp., 本体価格2,800円, ISBN:9784759820133版元ページ

19世紀イングランドでは美麗な鳥の羽毛をあしらった帽子が大流行したが,フライフィッシングもそうだったとは意外.


【目次】
プロローグ 9

第1部 捕われる鳥、裕福な人 23

1章 アルフレッド・ラッセル・ウォレスの試練 24
2章 ロスチャイルドの博物館 53
3章 羽飾りファッションの大流行 59
4章 自然保護運動の誕生 65
5章 ヴィクトリア時代の高貴なたしなみ 72
6章 毛針界の希望の星 84

第2部 トリング窃盗事件 109

7章 ロンドンでの日々 110
8章 博物館侵入計画 121
9章 窓破り事件 131
10章 突拍子もない犯罪 138
11章 捜査 147
12章 ネットオークション 156
13章 逮捕 162
14章 審理 167
15章 診断 175
16章 判決 180
17章 消えた仮剝製の行方は? 189

第3部 真相究明 197

18章 国際毛針制作シンポジウム 198
19章 自然史標本はなぜ重要か 208
20章 タイムマシンに出合う 226
21章 鳥類学者プラムのUSBドライブ 239
22章 エドウィンとの対面 254
23章 ノルウェーでの三日間 272
24章 ミケランジェロが消えた 298
25章 鳥の魔法 311

謝辞 325
情報源について 333

訳者あとがき 337

口絵写真のクレジット [341]
参考文献 [347-342]
原注 [368-348]
索引 [381-369]

『生きもの民俗誌』序章〜第I章メモ

野本寛一
(2019年7月30日刊行,昭和堂,京都, xviii+666+xxiii pp., 本体価格6,500円, ISBN:9784812218235目次版元ページ

とても重い本だが,出張先のサッポロの街を連れ歩いた.

序章「天城山麓のムラから」を読んだだけでもう引き込まれている.生きものをめぐる精緻な indigenous system of knowledge がここにある.

第I章「獣——ケモノ」(pp. 17-355)は「鹿」の節(約100ページある)から始まる.鹿の “生き角” と “死に角” の使われ方の違い(漁業に用いられている),生き血の利用法(猪と鹿では血の使い方がちがう),鹿肉のさまざまな調理法など民俗動物学の話題が次から次へと湧き出している.「鹿」の節をやっと読了.鹿の民俗と祭祀に関する情報量がハンパない.同時に近年の “異常繁殖” の異常さも具体的によくわかる.

続く第I章「熊」の節へ.これまた100ページもある.熊と人との関係は多重的.鹿よりも熊の方がより “神がかる” ように感じられるのはマタギ文化のせいか.最後にはプーさんやくまモンも登場する.

第I章「猪」の節を読了.イノシシは食用動物だったことを知る.備忘メモ:「案山子=嗅がし」「ヌタ場の禁忌」「ツナヌキ」「臼杵の猪の窟」,猪はマムシもハブも喰ってしまうと書かれている.なお,イノシシが泥浴びする “ヌタ場” の民俗については:柳田國男・倉田一郎(編)『分類山村語彙』(1941年5月15日刊行,信濃教育會,長野, 4+410 pp. → 目次国立国会図書館デジタルコレクション)にも項目(pp. 34, 222)が立てられていた.

第1章「鹿」「熊」「猪」を読み終えてようやく300ページを越えた.しかし,まだ全体の半分にも達していない.それどころか,第1章が残り50ページ以上もある.長距離走というか持久戦というか.

続いて「狐」の節へ.キツネは稲荷信仰の根幹となる動物で,宗教的に複雑な “霊性” を帯びている.しかし,著者はむしろ人間とキツネをめぐる生態学的関係に注目する.キツネ個体群の増減は他の動物たとえば被食者ウサギの増減と関係する.したがって,農業や牧畜の文脈からはキツネは害獣でもあり益獣でもあるとみなされてきた.

第I章の最後は「土竜」の節.モグラは農作物に直接の食害を及ぼす動物ではないが,田畑の畦道を掘り返して壊す害獣とみなされた.日本各地にはモグラ退治のさまざまな技術が開発されてきた.なかでも音響振動防除法(pp. 339-341)はとくに興味深い.

以上,第I章は計350ページもの長大な章だった.

『生命科学の実験デザイン[第4版]』書評

G・D・ラクストン,N・コルグレイヴ[麻生一枝・南條郁子訳]
(2019年6月15日刊行,名古屋大学出版会,名古屋, xii+304 pp., 本体価格3,600円, ISBN:9784815809508目次版元ページ

さすがは生態学センスのある著者なので,他書では見ない “偽反復(pseudoreplication)” に関する章も立てられていて超すばらしい.統計データ解析に先行する「実験計画法」の原理と実践を知るには現時点でイチオシ本ではないかと思う.ここ20〜30年ほど実験計画法のちゃんとした成書がなかったので,その “空きニッチ” をきっちり埋めてくれた感がある.さすがは名古屋大学出版会.個人的には,「完全ランダム化デザイン」よりは「完全無作為化法」,「ランダム化ブロックデザイン」ではなく「乱塊法」,「分割プロットデザイン」は「分割区法」と最節約的に略記してほしいが,それらは訳語の好みにすぎないかもしれない.そもそも,「experimental design」を「実験計画法」ではなく「実験デザイン」と訳したり,「randomize」を「無作為化」ではなく「ランダム化」と訳すのは最近の傾向なのだろうか.あと,要因間の「interaction」は「相互作用」ではなく「交互作用」と訳してほしいな.

『昭和・平成精神史:「終わらない戦後」と「幸せな日本人」』目次

磯前順一
(2019年8月8日刊行,講談社講談社選書メチエ・708],東京, 275 pp., 本体価格1,800円, ISBN:9784065169483版元ページ


【目次】
はじめに —— 人生は泳ぐのに、安全でも適切でもありません 7
第1章 「戦後」というパンドラの匣 —— 太宰治からの問い 17
第2章 失われた言葉 —— 東日本大震災と「否認」の共同体 53
第3章 謎めいた他者 —— ゴジラ力道山、回帰する亡霊たち 91
第4章 真理の王 —— オウム真理教と反復される天皇制 137
第5章 民主主義の死 —— シラケ世代と主体性論争、そして戦争のトラウマ 177
第6章 戦後の「超克」 —— 沢田研二、その空虚な主体の可能性 223
おわりに —— 戦後社会という世界の外で 259

参考文献

『月下の犯罪:一九四五年三月、レヒニッツで起きたユダヤ人虐殺、そして或るハンガリー貴族の秘史』

サーシャ・バッチャーニ[伊東信宏訳]
(2019年8月8日刊行,講談社講談社選書メチエ・707],東京, 294 pp., 本体価格1,850円, ISBN:9784065168554版元ページ

ファーストネームがワタクシと同じ著者は東欧音楽の専門家.もう20年も前に,伊東信宏『バルトーク:民謡を「発見」した辺境の作曲家』(1997年7月刊行,中央公論新社中公新書・1370],東京, vi+204 pp., ISBN:4121013700版元ページ)をとても興味深く読んだ記憶がある.

『〈島〉の科学者:パラオ熱帯生物研究所と帝国日本の南洋研究』読売新聞書評と備忘メモ

坂野徹
(2019年6月20日刊行,勁草書房,東京, viii+356+30 pp., 本体価格4,700円, ISBN:9784326102747目次版元ページ

読売新聞大評が一般公開された:三中信宏はるかなる南洋の島々 ——〈島〉の科学者…坂野徹著」(2019年8月4日掲載|2019年8月13日公開)



はるかなる南洋の島々

 20世紀前半、両世界大戦にはさまれた時代の日本は北太平洋の島々にその版図を急速に拡げていった。はるかなる南洋へと旅立った多くの日本人の中には科学者も含まれていた。本書は、第1次世界大戦中の1914年に日本が無血占領によって得たパラオ諸島を舞台に、日本の国策的“南進”の一環として第2次世界大戦中までパラオで活動した科学者たちに光を当てた初めての本だ。

 日本学術振興会の肝煎りで1935年に開所された「パラオ熱帯生物研究所」がこの地域の科学研究を支えた。この研究所は、世界最先端のサンゴ礁研究の中心となった。著者は、はるばるパラオに来た研究者たちの経歴を丹念にあとづけしながら、彼ら所員の渡航の契機、島での研究生活の苦労と楽しみ、そして太平洋戦争へとなだれ込んでいく時代の匂いまでも復元する。

 当時のパラオには、外部の研究者たちも生物学・人類学・考古学などの調査に訪れた。たとえば今西錦司をリーダーとするポナペ調査隊活動もそのひとつだった。日本領最前線への“科学的踏査”を求める学問・政治・経済などさまざまな動機づけがあったことがわかる。

 41年の太平洋戦争勃発後は日本を取り巻く社会情勢が大きく変わり、パラオ熱帯生物研究所は43年に閉鎖された。所属の科学者たちも散り散りになり、敗戦まで戦地を転々とした。

 読者は仄暗い迷路のような歴史の洞窟を著者にいざなわれながら手探りで進む。今にも散逸しかねない史料や証言を丹念に紡ぎ合わせなければ本書のストーリーはできあがらなかっただろう。そして、戦後、パラオ関係者の多くが幽明界を異にしたまさにその黄昏時に、宮崎は佐土原島津家の末裔である元所員・島津久健が沈黙と忘却の淵から一瞬のスポットライトを浴びて舞台に躍り出る本書の結末は、さまざまな人物によってつむがれたこの壮大な歴史物語の感動的なエンディングだ。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年8月4日掲載|2019年8月13日公開)



両世界大戦のはざまの時期に旧日本領の最前線となった南洋諸島での研究者群像を描く.第一次世界大戦中の1914年に日本がドイツから取得したパラオ諸島は,大戦後は委任統治領となり,日本が国際連盟を脱退したあとも実質的には “日本領” として支配され続けた.序章から第4章まではこの時期の日本による国策的 “南進” 活動を現地入りした科学者たちの活動に光を当てつつ解明する.

第5章「サンゴ礁の浜辺で──パラオ熱帯生物研究所の来歴」読了.日本学術振興会の肝煎りで創設された「パラオ熱帯生物研究所」(1935〜1943年)の歴史を概観.パラオ熱帯生物研究所初代所長は動物学者・畑井新喜司.畑井新喜司といえば何はさておき “ミミズ研究者” として有名だ.ワタクシの書棚の奥には,蝦名賢造 1995『畑井新喜司の生涯―日本近代生物学のパイオニア』西田書店とともに,畑井新喜司 1980『みみず[復刻版]』サイエンティスト社が並ぶ.その畑井が率いるパラオ熱帯生物研究所が,当時世界最先端のサンゴ礁研究の中心だったことを本書で初めて知った.

続く第6章「緑の楽園あるいは牢獄──パラオ熱帯生物研究所の研究生活」では研究所所員の個別研究(阿部襄・元田茂・羽根田弥太・阿刀田研二)に踏み込む.対象はもっぱら海洋生物だった.第7章「〈島〉を往来する──南洋学術探検隊・田山利三郎・八幡一郎・杉浦健一」では,パラオ熱帯生物研究所を取り巻く外部研究者たちの活動を振り返る.当時の日本領の最前線の “科学的踏査” を求めるさまざまな動機づけがあったことがわかる.第8章「「来るべき日」のために──京都探検地理学会のポナペ調査」で取り上げられるのは,今西錦司率いる1941年のポナペ調査だ.意外なことに,このポナペ調査隊とパラオ熱帯生物研究所との接点はほとんど皆無だったと記されている.

第9章「さらに南へ!──戦時下のパラオ熱帯生物研究所とニューギニア資源調査」読了.1941年に太平洋戦争が勃発して社会情勢は大きく変わり,パラオ熱帯生物研究所は1943年に閉鎖となった.入れ替わりに立ち上がった海軍ニューギニア資源調査隊とともに科学者たちの “南進” は進んだ.このニューギニア資源調査(1943年)の目的地は「蘭印」と呼ばれた旧オランダ領東インドの西ニューギニアだった.蘭印は長らくオランダの支配が続いたので,オランダ語の文献を読む必要があっただろう.南親会編『蘭和大辞典』が1943年に創造社から出版されたのは偶然ではないと推測される.

第10章「パラオから遠く離れて──パラオ研関係者のアジア・太平洋戦争」読了.太平洋戦争下のことども.パラオを離れた科学者たちのある者はマニラへ,ある者は満州へと転進していった.「満州国」「七三一部隊」「鹿野忠雄」「昭南博物館」などなどいくつものパズル・ピースが絡み合った時代.最後の第11章「〈島〉が遺したもの──南洋研究と岩山会の戦後」は敗戦後長く後を引くパラオ研の後日譚.そして,最後の最後に思わぬエビソードが待ち受けていた.ずっと脇役だったはずなのに,こういう人生もあったのかと余韻が残るエンディングだ.良書.

『恐竜の世界史:負け犬が覇者となり、絶滅するまで』目次

ティーブ・ブルサッテ[黒川耕大訳/土屋健日本語版監修]
(2019年8月8日刊行,みすず書房,東京, VIII+323+xxxi pp., 本体価格3,500円, ISBN:9784622088240版元ページ


【目次】
口絵 III-V
プロローグ 恐竜化石の大発見時代 1
1 恐竜、興る 9
2 恐竜、台頭する 43
3 恐竜、のし上がる 75
4 恐竜と漂流する大陸 107
5 暴君恐竜 141
6 恐竜の王者 173
7 恐竜、栄華を極める 205
8 恐竜、飛び立つ 241
9 恐竜、滅びる 277
エピローグ 恐竜後の世界 307
謝辞 315
訳者あとがき 321
図版出典 [xxxi]
参考文献 [ix-xxx]
索引 [i-viii]