『書店本事:台湾書店主43のストーリー』読了

郭怡青(文)・欣蒂小姐(絵)・侯季然(映像)[小島あつ子・黒木夏兒訳]
(2019年6月27日刊行,サウザンブックス,東京, 432 pp., 本体価格2,600円, ISBN:9784909125125目次版元ページ映像リスト《書店裡的影像詩Ⅰ-日文字幕版》 [YouTube])

リンクされている動画を流しながらどんどん読み進んだ.台湾での独立系書店について:「ここ数年間,台湾には文芸開花の風が吹いているように感じられる.景気が悪いと言われているにもかかわらず,それぞれの理想に満ちた小規模な書店は続々と,台湾のあらゆる街角に芽吹いている」(『書店本事』p. 110)—— うらやましいかぎり. 読了.台湾の独立書店はそれぞれに魅力的.テキストとイラストと動画の連携が心地よい.読売新聞に小評を書くことが決まっている.

『在野研究ビギナーズ:勝手にはじめる研究生活』目次

荒木優太(編著)
(2019年9月1日刊行,明石書店,東京, 286 pp., 本体価格1,800円, ISBN:9784750348858版元ページ

前著:荒木優太『これからのエリック・ホッファーのために:在野研究者の生と心得』(2016年3月1日刊行,東京書籍,東京, 255 pp., 本体価格1,500円, ISBN:9784487809752目次書評エン-ソフ版元ページ)に続く “在野研究者” 本.現在進行形の在野研究の事例集.前著の書評にも書いたが,研究者クラスターは「在野研究者=野生の研究者」/「非在野研究者=アカデミアなかのひと」というきれいな分類ができるわけではない.あるひとりの研究者が分野によっては “アカデミア” に属したり “在野” だったりすることもあるからだ.そんなわけで,『在野研究ビギナーズ:勝手にはじめる研究生活』は自称の「在野/非在野」を問わずすべての研究者にとってまたいで通り過ぎることができないとてもキケンな新刊.


【目次】
序 あさっての方へ 3

第1部 働きながら論文を書く

第1章 職業としない学問 —— 酒井大輔 16
第2章 趣味の研究 —— 工藤郁子 31
第3章 四〇歳から「週末学者」になる —— 伊藤未明 47
◇インタビュー1 図書館の不真面目な使い方 小林昌樹に聞く 61
第4章 エメラルド色のハエを追って —— 熊澤辰徳 76
第5章 点をつなごうとする話 —— 内田明 91

第2部 学問的なものの周辺

第6章 新たな方法序説へ向けて —— 山本貴光吉川浩満 110
第7章 好きなものに取り憑かれて —— 朝里樹 124
第8章 市井の人物の聞き取り調査 —— 内田真木 139
第9章 センセーは、独りでガクモンする —— 星野健一 153
第10章 貧しい出版私史 —— 荒木優太 168
◇インタビュー2 学校化批判の過去と現在 山本哲士に聞く 181

第3部 新しいコミュニティと大学の再利用

第11章 〈思想の管理〉の部分課題としての研究支援 —— 酒井泰斗 202
第12章 彷徨うコレクティヴ —— 逆卷しとね 218
第13章 地域おこしと人文学研究 —— 石井雅巳 232
◇インタビュー3 ゼロから始める翻訳術 大久保ゆうに聞く 247
第14章 アカデミアと地続きにあるビジネス —— 朱喜哲 264

在野のための推薦本 278

『ウシの動物学(第2版)』目次

遠藤秀紀
(2019年8月5日刊行,東京大学出版会[アニマル・サイエンス:2],東京, iv+223 pp., 本体価格3,800円, ISBN:9784130740227版元ページ

第1版が出たのが2001年7月なので,ほぼ20年ぶりの改訂となる.これで〈アニマル・サイエンス〉シリーズ全5巻はすべてアップデートされた.


【目次】
刊行にあたって[林良博・佐藤英明] i
第1章 究極の反芻獣――哺乳類のウシ・家畜のウシ 1
第2章 生きるためのかたち――ウシの解剖学 31
第3章 もう1つの生態系――ウシの胃 73
第4章 家畜としての今昔――ウシの生涯 111
第5章 これからのウシ学――ウシを知りウシを飼う 153
補章 過去と未来への客観性 169

あとがき 189
第2版あとがき 193
引用文献 195
事項索引 219
生物名索引 222

『The Art of Naming』目次

Michael Ohl[Elisabeth Lauffer 訳]
(2018年3月刊行, The MIT Press, Massachusetts, xvi+294 pp., ISBN:9780262037761 [hbk] → 版元ページ

動物分類学における「命名」の歴史について書かれた良書.一年以上も前に英訳版が出ていたことをうっかり見逃していた(最近こーいう見逃しが多いな).ドイツ語原書:Michael Ohl『Die Kunst der Benennung』(2015年刊行, Matthes & Seitz, Berlin, 318 pp., ISBN:9783957570895 [hbk] → 目次版元ページ).独語版原書は第6章までのろのろ読み進んだところで行き倒れてしまった.英語訳が出たからにはふたたび起き上がるしかないな.


【目次】
Prologue: The Beauty of Names vii
Acknowldgments xi
Notes on the Images xv

1. Hitler and the Fledermaus 1
2. How Species Get Their Names 37
3. Words, Proper Names, Individuals 73
4. Types and the Materiality of Names 97
5. The Curio Collection of Animal Names 129
6. “I Shall Name This Beetle After My Beloved Wife ...” 151
7. “A New Species a Day” 183
8. Who Counts the Species, Names the Names? 211
9. Naming Nothing 243
Epilogue: On Labeling 273

Notes 275
References 281
Index of Author Names 293

『系図:語りとオーケストラのための —— 若い人たちのための音楽詩』

武満徹
(2006年2月6日刊行,ショット・ミュージック[SJ 1158],東京, ISBN:9784890664580 | ISMN:M-65001-212-6 → 版元ページ

武満徹の〈系図〉の総譜が日本ショットから10年以上も前に出版されていたことを見逃していた.まったくうっかりしていた.さっそく発注したところ.本日いかにもショットらしい真っ黄色の大判の総譜が届いた.この〈系図〉は,20年前に出版したワタクシにとっての初単著『生物系統学』(1997)の “テーマ・ミュージック” である.当時入手できた唯一のCDは小澤征爾指揮によるサイトウ・キネン・オーケストラ(1995)で,日本語の語りは当時まだ10台なかばの遠野凪子だった.その後も小澤征良(英語版)や吉行和子(日本語版)の〈系図〉を聴いたが,ワタクシ的には遠野凪子を超えるものではなかった.しかし,これまた見落としていたが,一年前の2018年5月にアンドレア・バッティストーニ指揮の東京フィルハーモニー交響楽団がのん[能年玲奈]を語り手として〈系図〉を新録音していたので即座に注文.YouTubeの動画「【BEYOND THE STANDARD vol.2】バッティストーニ&東京フィル/のん(語り)「武満徹:系図」」が公開されている.この語りはとてもいいかもしれない.

『南の島のよくカニ食う旧石器人』目次

藤田祐樹
(2019年8月23日刊行,岩波書店[岩波科学ライブラリー・287],東京, xii+134+2 pp., 本体価格1,300円, ISBN:9784000296878版元ページ


【目次】
はじめに iii
年表 xi
地図 xii

1 むかしばなしの始まり――人類誕生,そしてヒトは沖縄へ 1
2 洞窟を掘る――沖縄に旧石器人を求めて 25
3 カニとウナギと釣り針と――旧石器人が残したもの 55
4 違いのわかる旧石器人――「旬」の食材を召し上がれ 97
5 消えたリュウキュウジカの謎 109
6 むかしばなしはまだ続く 123

写真提供 [2]
参考文献 [1-2]

『鐘の本:ヨーロッパの音と祈りの民俗誌』読売新聞書評と備忘メモ

パウル・ザルトーリ[吉田孝夫訳]
(2019年5月1日刊行,八坂書房,東京, 454+x pp., 本体価格3,200円, ISBN:978-4-89694-261-3目次版元ページ

読売新聞小評が公開された:三中信宏鐘の本 ヨーロッパの音と祈りの民俗誌…パウル・ザルトーリ著」(2019年8月18日掲載|2019年8月26日公開)



 日本では、近在の寺から朝夕に鳴る時の鐘や大晦日の除夜の鐘を耳にする。ドイツの古い街を歩けば、教会の鐘楼から鐘の音が四方に響きわたる。二つの世界大戦にはさまれた不穏な時代のヨーロッパでは、数多くの歴史的な鐘が国策により鋳潰され武器にされる危機に瀕していた。著者は当時のドイツ国内をくまなくめぐり、鐘をめぐる逸話や民話を懸命に蒐集した。

 ドイツの鐘は饒舌だ。冠婚葬祭の祝辞や弔辞はもちろん、うらみつらみやとりとめない言葉遊び、はては厨房での料理の出来具合までしゃべるつぶやく。彼の地の鐘は自分で鳴ったり歩いたり翼を付けて空を飛んだりもするらしい。日本で言えば室町時代につくられたとされる『百鬼夜行絵巻』に登場する「鐘の付喪神」を連想させる。

 本書はドイツに深く根ざした「鐘」の歴史と文化と民俗の基本文献だ。原書は1932年出版。もう90年も前の本だが、今回の翻訳に際して原書にはまったくない鐘の写真や古い絵を数多く追加しただけではなく詳細な巻末解説記事が付されていてとてもありがたい。吉田孝夫訳。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年8月18日掲載|2019年8月26日公開)



原書は1932年に出版されている:Paul Satori『Das Buch von Deutschen Glocken. Im Auftrage des Verbandes deutscher Vereine für Volkskunde』(1932年刊行, Walter de Gruyter & Co., Berlin und Leipzig, XII + 258 pp.).もう90年も前の本だが,ドイツにおける「鐘(Glocken)」がたどってきた歴史と文化と民俗を語る上では欠かせない基本文献とのこと.1932年出版の原書はポーランドヴロツワフ大学デジタルライブラリーから DjVu 形式のファイルとして全文公開されている:Digital Library of University of Wroclaw [DjVu: open access].なお,ワタクシはこの DjVu という画像圧縮方式についてぜんぜん知らなかったが,jpeg や pdf よりもはるかに圧縮率が高いとのこと.DjVuLibre というフリーの DjVu ビューワーが公開されている.

中世の西洋の鐘については,ずいぶん前に:阿部謹也甦える中世ヨーロッパ』(1987年7月30日刊行,日本エディタースクール出版部,東京,vi+331 pp.,ISBN:4-88888-124-3目次書評)を読んだことがある.一方,日本における鐘については:笹本正治中世の音・近世の音:鐘の音の結ぶ世界』(2008年4月10日刊行,講談社[学術文庫1868],343 pp.,本体価格1,100円,ISBN:978-4-06-159868-3目次書評版元ページ)がとても参考になった.

いまの打楽器奏者であれば,「グロッケンシュピール(Glockenspiel)」と聞けば,管弦楽吹奏楽で用いられる打楽器の「鉄琴」をすぐ思い浮かべる.しかし,グロッケンシュピールとはもともと音程の異なる複数の鐘からなる「組み鐘」— 「カリヨン(Carillon)」とも呼ばれる — を指していた.この組み鐘で旋律を演奏するのに鍵盤(棒)が用いられた.のちに,鐘の代わりに金属板を配置した「鍵盤付きグロッケンシュピール(jeu de timbre)」が発明され,さらに鍵盤が廃されてマレット(撥)で叩くようになったものが現代の「グロッケンシュピール(鉄琴)」だ.この楽器間の祖先子孫関係はとても興味深い.今でもドイツの古い街では大きな組み鐘が教会などに設置されていることがある.

今回の翻訳に際しては,原書にはまったくない鐘の写真や古い絵などがたくさん追加され,さらに巻末には訳者による詳細な解説記事「西欧における鐘の文化略史──あとがきに代えて」(pp. 417-454)が付されている.すばらしい.

『生きもの民俗誌』第II章メモ

野本寛一
(2019年7月30日刊行,昭和堂,京都, xviii+666+xxiii pp., 本体価格6,500円, ISBN:9784812218235目次版元ページ

第II章「鳥——トリ」読了.本章では民俗生物学的に人間と関わりが深かった「燕」と「鶴」が取り上げられている.とても益鳥だったツバメと意外にも害鳥だったツルの対比が興味深い.ここまででようやく400ページ超え.あと300ページもあるんですかそうですか.

『Belgian Beer: Tested and Tasted』

Kevin Verstrepen and Miguel Roncoroni『Belgian Beer: Tested and Tasted
(2018年10月刊行,Lannoo Publishers, Tielt, 576 pp., ISBN:9789401452892 [hbk] → 版元ページ

ベルギービール百科.筆頭著者の Verstrepen 教授はビール酵母ゲノミクスの専門家.英語版と同時にフラマン語版:Kevin Verstrepen and Miguel Roncoroni『Belgisch bier: getest en geproefd』(2018年9月刊行,Lannoo Publishers, Tielt, 576 pp., ISBN:9789401452885 [hbk] → 版元ページ)も出版されている.