中村桂子
(2020年5月10日刊行,藤原書店[中村桂子コレクション・いのち愛づる生命誌(全8巻)・第6巻],東京, 2 plates + 355 pp., 本体価格2,800円, ISBN:978-4-86578-269-1 → 版元ページ)
「7日間ブックカバーチャレンジ(バトン2)」
第二のバトンもめでたく大団円を迎えたので,下記にまとめる.
- 【2–一日目】松本零士『男おいどん(1)』(1976年12月20日刊行,講談社[講談社漫画文庫・MA56], 220 pp., 本体価格280円)※最終巻:松本零士『男おいどん(9)』(1977年8月15日刊行,講談社[講談社漫画文庫・MA64], 214 pp., 本体価格280円)までの全9巻構成.掛け値なしの名作だとワタクシは断言する.後半になると主人公・大山昇太よりも “トリさん” から目が離せなくなる.そして『男おいどん』のエンディング名場面.駒場寮でワタクシの所蔵する全巻をイッキ読みしたある寮生は「ナミダなくしては読み通せない」とマジで涙を流した.
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- 【2–二日目】大友克洋『童夢』(1983年8月18日刊行,双葉社[アクション・コミックス],東京, 233 pp., 本体価格780円)※ワタクシ的にはのちの代表作『AKIRA』よりもこちらの方が評価がずっと高い.尋常ならざるディテールの描き込みぶりもさることながら,天地を逆転させた浮遊感とか細かな伏線の張り方.
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- 【2–三日目】竹内吉蔵『原色日本昆虫図鑑(下)』(1955年9月1日刊行,保育社,大阪, 190 pp., 本体価格1,700円)※ワタクシが中学入学後すぐに買ったなつかしい図鑑の一冊.原色図版もさることながら,昆虫の分類群の和名がすべて “漢字表記” されていて,ノートに懸命に書き写した記憶がある.
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- 【2–四日目】ウンベルト・エーコ[河島英昭訳]『薔薇の名前(上)』(1990年1月25日刊行,東京創元社,東京, 413 pp., ISBN:4-488-01351-1 → 版元ページ)と『薔薇の名前(下)』(1990年1月25日刊行,東京創元社,東京, 426 pp., ISBN:4-488-01352-X → 版元ページ)※ワタクシが『生物系統学』を書くときにさんざんお世話になったので,バスカヴィルのウィリアムや修道士アドソが文中にたびたび登場することになった.この『薔薇の名前』だけでなく,ウンベルト・エーコ[和田忠彦監訳|柱本元彦・橋本勝雄・中山エツコ・土肥秀行訳]『カントとカモノハシ(上)』(2003年3月28日刊行, 岩波書店,東京, ISBN:4-00-022430-1)と『カントとカモノハシ(下)』(2003年7月29日刊行, 岩波書店,東京, ISBN:4-00-022431-X)でも,彼は分類に関わる推論と存在論について論じている.生物分類学は正しい意味で “存在の学” である.
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- 【2–五日目】分類といえば次はこれか:John R. Gregg『The Language of Taxonomy: An Application of Symbolic Logic to the Study of Classificatory Systems』(1954年刊行,Columbia University Press[Columbia Bicentennial Editions and Studies], New York, xii+71 pp.)※本書のおかげでワタクシは学位が取れたようなものだ.Gregg 1954 は確かに論理式がたくさん並んではいるけど,かの “ケンシロウ” や “ラオウ” ほどのコワさはないので,初心な生物学者たちにとっては心安らげる慰めがあったのかもしれない.もちろん,白眼亭・白上謙一くらいの論客ともなれば「もっと徹底的にやれぇ」となるのだろう.白上謙一『生物学と方法:発生生物学とはなにか』(1972年2月29日刊行,河出書房新社,東京, 220 pp.)の第四部「生物学と記号論理学 —— J・H・ウッジャーへの招待」(pp. 165-205)は公理論的生物学の紹介で,その元記事は『生物科学』掲載(1956).白上謙一『ほんの話:青春に贈る挑発的読書論』(1980年4月30日刊行,社会思想社[現代教養文庫・1017],東京, 306 pp.)にも「追補 —— J・H・ウッジャー先生訪問記」という文章が載っている.白上はもう少し長く生きられればよかったのにねえ.
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- 【2–六日目】Norbert Elsner(Hrsg.)2000. Das ungelöste Welträtsel: Frida von Uslar-Gleichen und Ernst Haeckel [3 Bände]. 2000年行,Wallstein Verlag, Göttingen, 1341 pp., ISBN:3-89244-377-7 [set]※エルンスト・ヘッケルと彼の愛人フリーダ・フォン・ウシュラー-グライヒェンとの往復書簡集.ヘッケルは彼が愛した女性たちの名をクラゲの種名にした.たとえば,最初の妻だったアンナ・ゼッテは Desmonema annasethe となり,同様に愛人フリーダは Rhopilema frida にその名を残した.しかし,二度目の妻であるアグネス・フシュケとは不仲だったためか最後までクラゲの学名にならなかった.ヘッケル–フリーダの書簡集は全3巻計1,300ページを超すボリュームがある.全編にわたりヘッケルの水彩画の書簡が散りばめられ,この上ない眼福だ.一方のフリーダさんはハートマークだらけの日記を残したりしている.こんな感じの愛人関係だったので,世間にバレないはずはないが,当時は “文春砲” みたいな突撃メディアは存在していなかったので(知らんけど),ものすごくゆったりしたテンポで,バクロ本が出版されたり,正妻アグネスさん側からの反論冊子が出たりと応酬はそれなりにあったようだ.そういう骨肉の争いを見聞きする前に,フリーダさんが若くして亡くなったのは結果的には幸いだったかもしれない.この “事件” があった当時ヘッケルはもう70歳近かったのだからホンマすごい.ワタクシもしっかり見習わないと(何をやねん).いずれにせよワタクシがヘッケルの大ファンになったのはこの大部の書簡集を読んでからだった.
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- 【2-七日目】西村三郎『文明のなかの博物学:西欧と日本(上・下)』(1999年8月31日刊行,紀伊國屋書店,東京,vi, 1-348[上巻]/pp.vi, 349-732[下巻], ISBN:4-314-00850-4 / ISBN:4-314-00851-2[下巻]→ 書評)※上下2巻計700ページ超のこの大著は日本と西洋の博物学を綿密に比較した名著.東アジア文化圏の “分類観” がわかる.生物多様性の科学が「記載の科学」から「分類の科学」へと変貌を遂げた時代にあった,博物学が目指したものが何だったかを問う本書の視点はワタクシにはとても説得力があった.読み物としても抜群に楽しかった.本書の詳細については20年前に書いたワタクシの書評をどうぞ.
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以上をもって,ワタクシの “バトン業務” はオシマイとします.とくに,誰かにバトンを渡したりしないので,「われこそは」という方は勝手に拾ってつないでください.よろしくよろしく.
『Why Fish Don't Exist: A Story of Loss, Love, and the Hidden Order of Life』目次
Lulu Miller
(2020年4月刊行,Simon & Schuster, New York, viii+225 pp., ISBN:978-1-5011-6027-1 [hbk] → 版元ページ)
魚類学者でありのちにスタンフォード大学初代学長となった David Starr Jordan の伝記.
【目次】
Prologue 1
1. A Boy with His Head in the Stars 7
2. A Prophet on an Island 17
3. A Godless Interlude 31
4. Chasing Tail 45
5. Genesis in a Jar 61
6. Smash 73
7. The Indestructible 85
8. On Delusion 95
9. The Bitterest Thing in the World 107
10. A Veritable Chamber of Horrors 125
11. The Ladder 141
12. Dadelions 149
13. Deus ex Machina165
Epilogue 183
A Note on the Illustrations 197
Acknowledgments 199
Notes 203
「7日間ブックカバーチャレンジ(バトン1)」
「7日間ブックカバーチャレンジ」なるバトンが同時に2本も回ってきたので,律儀にもちゃんとお務めを果たすことになった.もちろん,次々に他人にバトンを受け渡すのはためらわれるので,ワタクシが勝手にお務めしてそれでオシマイということにする.まずは第一のバトンから.
- 【1–一日目】木原浩勝・中山市朗『新・耳・袋:あなたの隣の怖い話』(1990年9月5日刊行,扶桑社,東京, 334 pp., 本体価格1,000円, ISBN:4-594-00629-9)※その後多くの類書(都市怪談・現代民話)が出たが本書はピカイチの怖さ. “くだん” の話も載っている.
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- 【1–二日目】ホルトハウス房子『カレーの秘伝:これこそ最高の家庭料理』(1976年10月10日刊行,光文社[カッパ・ホームス],東京, 209 pp., 本体価格500円)と城戸崎愛『とっておきのフライパン料理』(1976年7月2日刊行,主婦の友社,東京, 106 pp., 本体価格350円)※この2冊は大学入学後すぐ買って料理の基礎を学んだ思い出深い本.もちろん当時は駒場寮に入っていたので,自炊する機会はほとんどなかったが,千駄木に移り住んでから全面開花.ほとんど “食堂” のような自炊生活をすることになった.城戸崎愛さんは今年はじめに亡くなられたが,ホルトハウス房子さんはまだご存命で料理研究家・実業家として活躍中.
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- 【1–三日目】椎名誠『全日本食えばわかる図鑑』(1985年3月15日刊行,小学館,東京, 236 pp., 本体価格780円, ISBN:4-09-359301-9)※パワー炸裂期の椎名誠.沢野ひとしの意味不明ヘタウマ絵.「青イソメ・ゴカイ丼」は未経験だが「シソ肉バター丼」は食えばわかる.あの非常識な量のバターを投入できる勇気は若気の至りというしかない.
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- 【1–四日目】大川渉・平岡海人・宮前栄『下町酒場巡礼』(1998年10月6日刊行,四谷ラウンド,東京, 285 pp., 本体価格1,500円, ISBN:4-946515-22-4)|大川渉・平岡海人・宮前栄『続・下町酒場巡礼(2000年12月8日刊行,四谷ラウンド,東京, 262 pp., 本体価格1,500円, ISBN:4-946515-58-5)※かつて千駄木在住時は〈八十八〉で越乃寒梅を呑み〈こけし〉でご飯を食べて帰る日々.本書は “故郷” めぐり.のちにちくま文庫に入った.
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- 【1–五日目】宮脇俊三『時刻表2万キロ』(1978年7月10日刊行,河出書房新社,東京, 254 pp., 本体価格880円)※著者の処女作.“鉄分” 多めの読者にとっての故郷のひとつ.かの『風流夢譚』事件や組合闘争のせいで『中央公論』編集長を辞さなければ,稀代の “鉄道作家” は生まれなかっただろう.ワタクシの書棚には宮脇俊三『鉄道廃線跡を歩く(全10巻)』(1995〜2003,JTBキャンブックス)が愛蔵されていて,ときどきコッソリ覗き見するのは日々の愉しみのひとつ.
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- 【1–六日目】文藝春秋(編)[増井和子・山田友子・本間るみ子著]『チーズ図鑑』(1993年11月1日刊行,文藝春秋,東京, 271 pp., 本体価格3,000円, ISBN:4-16-348130-3)※今ではチーズの本はもうめずらしくないが,30年前はチーズの本格的な “原色図鑑” といえば本書だった(と思う).著者・本間るみ子さんのナチュラチーズ専門店〈フェルミエ〉の会員だったこともある.
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- 【1-七日目】バトン1の最後はお酒の神様にご登場願おう.京都学派の中国文学者・青木正児『華国風味』(1984年5月16日刊行,岩波書店[岩波文庫・青165-1],東京,238 pp., ISBN:4-00-331651-7 → 版元ページ)と青木正児『酒の肴・抱樽酒話』(1989年6月16日刊行,岩波書店[岩波文庫・青165-2],東京,238 pp., ISBN:4-00-331652-5 → 版元ページ).かの坂口謹一郎が一目置いた文人.もう一冊追加しておこう:青木正児『中華飲酒詩選』(2008年4月10日刊行,平凡社[東洋文庫・773],東京,376 pp., ISBN:978-4-582-80773-8 → 情報|版元ページ).
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『Evolution by Association: A History of Symbiosis』目次
Jan Sapp
(1994年刊行, Oxford University Press, New York, xviii+255 pp., ISBN:0-19-508821-2 [pbk] → 版元ページ)
【目次】
Acknowledgments vii
Introduction xiii
1. Symbiosis: Evolution in Action 3
2. The Meanings of Mutualism 15
3. Socially Constructing the Individual 35
4. Symbiogenesis in Russia 47
5. Engendering Genesis Stories 60
6. Les Symbiotes and Germ Theory in France 76
7. The Pasteurization of Les Symbiotes 93
8. Les Symbiotes Revisited 110
9. Verbal Phantoms 131
10. Organisms and the Edge of Disciplines 148
11. Molecular Reconstruction 165
12. The Dull Edge of Ockham's Razor 179
13. Is Nature Motherly? 191
Concluding Remarks 205
Notes 213
Index 249
「ゴールデンウィーク「こころがなごむ本」<1>」
『土を喰ふ日々:わが精進十二ヶ月』
水上勉
(1978年12月17日刊行,文化出版局,269 pp.,ISBNなし/1982年8月刊行,新潮社[新潮文庫],235 pp., ISBN:4101141150)
読売新聞「ゴールデンウィーク「こころがなごむ本」<1>」(2020年4月23日(日)掲載|2020年5月3日公開)で,ワタクシは本書を選んだ.
還暦を過ぎてから評者は朝に夕に料理を手がけることがさらに多くなったが、はたち過ぎに千駄木の下宿の狭い炊事場でひとり料理をつくり始めたのがすべての始まりだった。その頃たまたま買った精進料理本が社会派作家・水上勉の手になる本書だ。京都の等持院で彼は“隠侍”として修行を積み、“典座”の教えに従い、精進料理の基本を叩き込まれた。軽井沢の地に出回る旬の地野菜を使った精進料理レシピの数々を味わい深い写真とともにゆっくり読んでじっくり味わえば、誰しも厨房に立ちたくなるだろう。評者ももっと精進しないと。
『文化進化の数理』目次
田村光平
(2020年4月9日刊行,森北出版,東京, viii+239 pp., 本体価格3,600円, ISBN:978-4-627-06271-9 → 版元ページ)
推薦の言葉を寄稿しました.出版おめでとうございます.カバージャケットからしてすでに攻めまくり.
【目次】
序文 i
第1章 文化進化とは何か 1
第2章 文化小進化の数理 31
第3章 文化小進化の発展的なモデリング 99
第4章 文化小進化のデータ解析 144
第5章 文化大進化の数理 181
おわりに 229
謝辞 236
索引 238
『瀕死の統計学を救え! :有意性検定から「仮説が正しい確率」へ』目次
豊田秀樹
(2020年3月10日刊行,朝倉書店,東京, xii+144 pp., 本体価格1,800円, ISBN:978-4-254-12255-8 → 版元ページ)
【目次】
はじめに i
プロローグ viii
第I部 瀕死の統計学 1
1. 「統計的に有意」は必要条件にしか過ぎない-学述的価値に連動しない査読の基準- 12. 神の見えざる手-有意でも無意味な論文で学術誌は満載される- 16
3. 前門の虎・後門の狼-nは,根拠を示して予め定めねばならない- 34
4. ゾンビ問題-「事前に決めた」という事実を,事後,永久に保証するのか- 56
幕間:第I部で明らかになった問題点 72
第II部 統計学を救え! 74
5. ベイズの定理・「研究仮説が正しい確率」-比率の推測を例に- 746. 結論の言葉に真心を込めて-独立した2群の差の推測を例に- 92
幕間:解決された第I部の問題点 111
第III部 教育そして悪意 113
7. セリグマンの犬-対応ある2群の差の推測を例に- 1138. 改ざんと隠ぺい-黒洞洞たる闇の広がり- 127
Q&A 135
参考文献 141
索引 142
『もうダメかも:死ぬ確率の統計学』目次
マイケル・ブラストランド,デイヴィッド・シュピーゲルハルター[松井信彦訳]
(2020年4月10日刊行,みすず書房,東京, vi+366+27 pp., 本体価格3,600円, ISBN:978-4-622-08888-2 → 版元ページ)
データと直感をまたぐリスク認知の本.近年まれに見るキャッチーな書名と真っ赤なカバー.もうダメかも.
【目次】
はじめに 1
1 人生の始まり 15
2 乳児期 25
3 暴力 39
4 平穏無事 50
5 事故 65
6 予防接種 79
7 偶然の一致 90
8 セックス 102
9 薬物 117
10 大きなリスク 133
11 出産 150
12 ギャンブル 161
13 平均的なリスク 174
14 偶然 182
15 交通機関 197
16 エクストリームスポーツ 218
17 ライフスタイル 228
18 安全衛生 243
19 放射線 255
20 天空 266
21 失業 281
22 犯罪 292
23 手術 308
24 検診 323
25 老後のお金 333
26 人生の終わり 342
27 審判の日 353
謝辞 365
原注 [5-27]
索引 [1-4]