『植物園の世紀:イギリス帝国の植物政策』目次

川島昭夫
(2020年7月10日刊行,共和国,東京, 237 pp., 本体価格2,800円, ISBN:978-4-907986-66-7版元ページ版元ドットコム「はじめに——著者に代わって[志村真幸]」

読了.をを,これは予想通りのアタリ本です.西洋列強の海外進出(17〜19世紀)による有用植物(香辛料・食用・薬用)の資源探索と,各植民地に造られた植物園での移植栽培と大規模人為移入の歴史.イギリスが当時の海外植民地に次々につくった植物園の果たした役割,それを推進したプロあるいはアマの植物学者&プラントハンターたちの経歴がくわしく考察されている.ワタクシ的には本書の造本はことのほか快適だった.表紙の〈バウンティ号の反乱〉を描いた名画にはパンノキの鉢植えが.著者は今年はじめに逝去されたとのことで,ところどころレファレンスがたどれない箇所があるのはしかたがないだろう.こういういい装幀の本は黙っていても向こうから声がかかる.


【目次】
はじめに —— 著者に代わって[志村真幸] 6
第1章  植物帝国主義 11
第2章  重商主義帝国と植物園 43
第3章  カリブの植物園 83
第4章  ブルーマウンテンの椿 —— カリブの植物園・2 107
第5章  インドの植物園と大英帝国 133
第6章  植物学の同胞 —— インドの植物園と大英帝国・2 157
第6章  戦艦バウンティ号の積み荷 181
第8章  海峡の植物園 —— ペナンとシンガポール 193
本書について[志村真幸] 233
初出一覧 237

『京大的文化事典:自由とカオスの生態系』目次

杉本恭子
(2020年6月25日刊行,フィルムアート,東京, 319 pp., 本体価格1,600円, ISBN:978-4-8459-1823-2版元ページ

京大の “なか” を見る本.読売新聞はここのところ「発酵本」と「京都本」を取り上げる確率が高いというオモテの声があるが,読書委員の構成を見ればそれは想定内の事態だろう.


【目次】
はじめに 3
京都大学ざっくり略年表 6
京大的文化的キャンパスマップ 12

序章:折田先生像と「自由」 19

折田彦市 23/折田先生像銅像) 26/折田先生像(ハリボテ) 29/当局の看板 31/折田先生を讃える会 35
コラム:自由の学風 39

1章:教養部とA号館 43

教養部 47/森毅 50/バリケードストライキ 53/A号館 56/A地下 59/キリン 61/国際高等教育院構想 63/京大変人講座 66
コラム:教養部解体 68

2章:西部講堂 73

西部講堂 77/MOJO WEST 81/西連協 83/CRY DAY EVENT 87/大屋根 92/RADIO FREEDOM 95
コラム:学生など当事者 97

3章:やぐらとこたつ

やぐら 107/こたつ 110/小屋 113/石垣★カフェ 115/くびくびカフェ 120/きんじハウス 125/ブンピカ 131/サウンド・デモ 134/総長団交 137
コラム:こたつから始まる自治 144

ここでちょっとお勉強1:学問の自由と大学の自治 148

4章:自治寮 157

吉田寮 161/吉田寮食堂 168/厨房 172/旧印刷室 175/オールジェンダートイレ 177/ストーム 180/吉田寮祭 182/熊野寮 184/熊野寮祭 188/KMN48 191/ガサ入れ 193/地塩寮 196/WEEKEND CAFE 198
コラム:「住む」を問い直す場所 202

ここでちょっとお勉強 2:京大と大学改革 208

5章:受け継がれ、生み出される空間 219

タテカン 223/ごりらとスコラ 227/吉田寮第二次在寮期限 230/百万遍クロスロード 237/くまのまつり 240/ワークショップくまの 243/オルガ先生像 246/卒業式コスプレ 250/京都大学新聞 253
コラム「長い歴史のなかの「今」を見る」 256

終章:今は個々バラバラの細流であっても 263



インタビュー:森見登美彦氏に聞いてみた:「京大」と「自由」の語りづらさについて 284


京大的文化の主なできごと年表 304
杉本恭子さんの本に寄せて[尾池和夫] 314
あとがき 318
主要参考文献 319

『漢字の構造:古代中国の社会と文化』

落合淳思
(2020年7月10日刊行,中央公論新社[中公選書・108],東京, 325 pp., 本体価格1,800円, ISBN:978-4-12-110108-2版元ページ

昨年立て続けに出た2冊:落合淳思『漢字字形史小字典』(2019年3月31日刊行,東方書店,東京, 32+493+33 pp., 本体価格6,000円, ISBN:978-4-497-21912-1目次版元ページ)とワタクシが書評した:落合淳思『漢字の字形:甲骨文字から篆書、楷書へ』(2019年3月25日刊行,中央公論新社中公新書・2534],東京, viii+207 pp., ISBN:978-4-12-102534-0読売新聞書評目次版元ページ)に続く3冊目.著者独自の系統樹ダイアグラム(「字形表」)はこの本でも大活躍.

『A Narrow Bridge[一本の細い橋]:美術でひもとくオランダと日本の交流史』

ヤン・デ・ホント,メンノ・フィツキ[松野明久・菅原由美訳]
(2020年3月31日刊行,大阪大学出版会,大阪, 253 pp., 本体価格6,000円, ISBN:978-4-87259-701-1版元ページ

日蘭交流本をなぜ阪大出版会が?と思ったら,「大阪大学適塾記念センター」が出したんだ.適塾!ナットクです.

『大食軒酩酊の食文化[第1集]』

石毛直道
(2020年6月27日刊行,教育評論社,東京, 143 pp., 本体価格1,800円, ISBN:978-4-86624-028-2版元ページ

読書委員会で「ミナカさん,はいっ」と手渡された.これくらいえらいセンセイになると呑んでも食べてもちゃんと本になる.「第1集」ということは続巻が出るということね.

『陸上植物の形態と進化』目次

長谷部光泰
(2020年7月1日刊行,裳華房,東京, 44 color plates + x + 248 pp., 本体価格4,000円, ISBN:978-4-7853-5871-6版元ページ

とってもカラフルな植物進化学最新刊.はい,もちろん大評決定です.読みます読みます.


【目次】
カラー口絵 (44 pp.)
はじめに iii
1.植物と陸上植物の定義 1
2.膈膜形成体植物 8
3.陸上植物の多様性:ヒメツリガネゴケシロイヌナズナの比較 24
4.陸上植物の系統と共通祖先の形態 66
5.膈膜形成体緑藻類から陸上植物への進化 77
6.コケ植物の進化 103
7.維管束植物の進化 112
8.小葉植物への進化 124
9.シダ植物と木質植物の共通祖先の進化 143
10.シダ植物 153
11.木質植物 174
12.前裸子植物 177
13.シダ種子類 181
14.現生種子植物の共通祖先 194
15.現生裸子植物への進化 199
16.被子植物の進化 213
あとがき 230
引用文献 232
索引 241

『〈美しい本〉の文化誌:装幀百十年の系譜』読売新聞書評

臼田捷治
(2020年4月17日刊行,Book&Design,東京, 16 color plates + 318 pp., 本体価格3,000円, ISBN:978-4-909718-03-7目次版元ページ

読売新聞大評が公開された:三中信宏紙の本に秘められた力 —— <美しい本>の文化誌 臼田捷治著」(2020年7月5日掲載|2020年7月13日公開).



紙の本に秘められた力

 よい装幀は“紙の本”に秘められたかぎりない可能性を解き放つ。数年前、神田錦町にある竹尾見本帖本店で〈系統樹の森〉展と銘打ったイベントを開催したことがある。グラフィックデザイナー杉浦康平氏の監修のもとで実現したこの展示で、アートディレクションの威力とともに、紙のもつ将来性と最先端の印刷技術に評者は目を見張った。

 本書には、明治から現代にいたる一世紀半に日本で出版された〈美しい紙の本〉が計350冊もリストアップされている。物理的存在である“モノ”としての“紙の本”は、単にテキストのもつ文字情報を伝えるだけではない。本体・表紙・カバージャケットに使われる紙の種類、印刷される文字書体のタイポグラフィー、配置される挿画などの多くの装幀要素がひとまとまりの“作品”をつくりあげる。

 これらの“紙の本”の装幀は誰が手がけたのだろうか? 本書は時代ごとの装幀スタイルの変遷を追い、著者本人・担当編集者・画家・詩人・デザイナーらさまざまな装幀家が本造りの理念と実践に大きな役割を果たしてきたことを明らかにする。かつての活版印刷から現在のDTPへとうねる大きな流れのなかで、そして新興の“電子本”とのせめぎあいのなかで、“紙の本”を支えてきた日本の造本文化の伝統は今なお連綿と受け継がれ、未来への道が拓かれていることを知る。

 現在では“紙の本”だけでなく“電子本”も私たちの日々の生活に深く馴染んでいる。しかし、両者を同じ「本」と呼ぶのはおそらくまちがいなのだろう。きちんと造られた“紙の本”を手にするときの満ち足りた幸福感は何物にも代えがたい。そういう本はまかりまちがっても“自炊”したりはしない。本を電子化することの“副作用”には敏感でありたい。

 最後に、本書そのものが〈美しい本〉の一冊だ。装幀はもちろん、カバージャケットの“箔押し”も美麗だ。眼福ここに極まれり。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2020年7月5日掲載|2020年7月13日公開)