参照表現あれこれ

原稿執筆時に「上述したように」とか「前章で説明したが」とかつい書いてしまうクセがワタクシにはあるようだ.しかし,読者にとってはこういう参照表現はきっとイライラのもとになるにちがいない.ましてや「賢明な読者ならおわかりだろうが」などと書くのはケンカを売っているにちがいない.その解決策はとてもシンプルだろう.「上述したように(第〜章〜節参照)」とか,ノンブルがフィックスされている場合は「前章で説明したが(p. 〜)」と書きさえすればいい.要するに,本の “どこ” を読めばそれが示されているかが明記されていればよい.

タチが悪い書き手ならば,「すでに説明したように」は単なる口癖であって,著者本人でさえどこに書いたかを把握していないこともきっとあるにちがいない.そういう場合は,賢明なる読者ならおわかりだろうが,軽やかに読み飛ばせばいい.

ワタクシ的には,ちょっと数学っぽい論文を読んでいて,「この定理の証明は自明である」と書かれると血圧が少し上がることもある.さらっとケンカを売られているような気配を感じる.それくらいだったら「この証明を示す余白は今はない(ページ超過料金のため)」とか書いてくれたらいいのにねえ.

また,商売上手な書き手なら,「私の前著『◯』の第△章〜◆節 pp.※〜※で詳細に説明したが」とことさらに詳しく参照箇所を示して,ナイーヴな読者にその本を買わせるくらいの “悪辣” きわまりない販促戦術を弄することもきっとあるにちがいない.

Cf: HUFFPOST「「前も言ったけど」は自粛します。料理中の夫を注意した女性の漫画に反響」(2021年2月2日)

『WAYFIDING 道を見つける力:人類はナビゲーションで進化した』

M・R・オコナー[梅田智世訳]
(2021年1月20日刊行,インターシフト,東京, 415 pp., 本体価格2,700円, ISBN:978-4-7726-9571-8版元ページコンパニオンサイト文献リスト[pdf]

生得的なナビゲーションといえば,ハロルド・ギャティ[岩崎晋也訳](2019年9月10日刊行,みすず書房,東京, 2 color plates + iv + 279 pp., 本体価格3,600円 → 版元ページ)を前に読んだな.

『農の原理の史的研究:「農学栄えて農業亡ぶ」再考』目次

藤原辰史
(2021年1月30日刊行,創元社[叢書パルマコン・03],東京, 357 pp., 本体価格3,600円, ISBN:978-4-422-20295-2版元ページ

「農学栄えて農業亡ぶ」と言われればおそるおそる手に取るしかないな.それにしても,ふじはらさん,最近ものすごくたくさん本を書いてません?


【目次】
序章 科学はなぜ農業の死を夢見るのか 7
第1章 夢追い人の農学――「チャヤーノフと横井時敬の理想郷 43
第2章 八方破れの農学――横井時敬の実学主義 83
第3章 大和民族の農学――橋本傳左衛門の理論と実践 125
第4章 転向者の農学――杉野忠夫の満洲と「農業拓殖学」 165
第5章 「血と土」の法学――川島武宜ナチス経験 203
第6章 反骨の実学――吉岡金市による諸科学の統一 251
終章 農学思想の瓦礫のなかで 301
あとがき 312
註 316
参考文献 339
人名索引 [357-351]

『Statistical Inference as Severe Testing: How to Get Beyond the Statistics Wars』目次

Deborah G. Mayo
(2018年9月刊行,Cambridge University Press, Cambridge, xvi+486 pp., ISBN:978-1-107-05413-4 [hbk] → 版元ページ

メイヨーさんの統計学本はどれも “破壊力” がありそうで. ハードカバー版をあえて買ったのはいざというときに投げr(やめなさい


【目次】
Preface xi
Acknowledgments xv

Excursion 1. How to Tell What's True about Statistical Inference

Tour I. Beyond probabilism and performance 3
Tour II. Error probing tools vs. logics of evidence 30

Excursion 2. Taboos of Induction and Falsification

Tour I. Induction and confirmation 59
Tour II. Falsification, pseudoscience, induction 75

Excursion 3. Statistical Tests and Scientific Inference

Tour I. Ingenious and severe tests 119
Tour II. It's the methods, stupid 164
Tour III. Capability and severity: deeper concepts 189

Excursion 4. Objectivity and Auditing

Tour I. The myth of 'the myth of objectivity' 221
Tour II. Rejection fallacies: whose exaggerating what? 239
Tour III. Auditing: biasing selection effects and randomization 267
Tour IV. More auditing: objectivity and model checking 296

Excursion 5. Power and Severity

Tour I. Power: pre-data and post-data 323
Tour II. How not to corrupt power 353
Tour III. Deconstructing the N-P vs. Fisher debates 371

Excursion 6. (Probabilist) Foundations Lost, (Probative) Foundations Found

Tour I. What ever happened to Bayesian foundations? 395
Tour II. Pragmatic and error statistical Bayesians 424


Souvenirs 445
References 446
Index 471

『International Code of Phylogenetic Nomenclature (PhyloCode)』

Philip D. Cantino and Kevin de Queiroz
(2020年6月刊行, CRC Press, Boca Raton, xl+149 pp., ISBN:978-1-138-33282-9 [pbk] → 版元ページ

序文40ページを読んだが,1990年の立ち上げ以来,ファイロコードがたどった “苦難の道” がしのばれる.先日の本屋B&Bでの夜噺でも言及したが,分類を系統に “従属” させようとするファイロコード派の野望は内外の抵抗にすり減ってきているような気がするんだけど.ワタクシが知っている1990年代初頭のファイロコード胎動期は既存のリンネ命名規約を置き換えようとする鼻息の荒さを感じた.そういえば,キャロル・ケスク・ユン[三中信宏・野中香方子訳]『自然を名づける:なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか』にも,ファイロコード派をめぐる抗争への言及があったな:「ファイロコードというプロジェクトは,ヘニックが主張した厳密な分岐学的な命名方法をすべての生物に当てはめようとする」(p. 321);「真の問題点はファイロコードが分類学者による命名法に根本的な変更を迫っただけではなく,環世界センスへの配慮がいっさいなかった点にある」(p. 322).