「網羅的な研究出力リストの効用」

若いうちから研究活動履歴としてのウェブサイトをつくり続けていれば,のちのち物忘れする年代になっても,漏れ落ちのない “ライフログ” として役に立ちます.論文リスト・学会発表リストを含めてすべて公開するように心がけると,結局は自分のためになるとワタクシは考えています.将来,いつかリタイアするときのためにも,完璧な「全業績リスト」を本人が前もって用意しておけばのちのちまで尊敬されるにちがいありません.

そのような網羅的リストはえてして長くなることがあるが,それはまったく問題ありません.むしろ長いことはいいことです.研究キャリアが長くなるにつれて,過去のこまごましたアウトプットの詳細を,他人はもちろんのこと,本人自身が思い出せないことがしばしばあります.そういう経験がワタクシにもありましたので,京大生態学研究センター所長だった川那部浩哉の方針に従い,網羅的に “出力リスト” をつくっています.ワタクシの場合,学部の卒論以降すべてのアウトプットを網羅的にリストアップして現在にいたりますが,現時点でテキストファイルにして274KBに達しています.ワタクシ自身は自分の出力の詳細はすっかり忘却していますが,リストがちゃんと覚えていてくれるので安心です.

年長の研究者の出力リストがとても長くなるのは当たり前です.そう見えるのは,まちがいなく「整数倍の威力」なので,研究キャリアが長くなれば誰でもアウトプットは単調に増加していくでしょう.研究上の “長期蓄積量” よりもむしろ “短期成長量” の方が大事ではないかとワタクシは思います.

『読む・打つ・書く』書評拾い(22)

三中信宏
(2021年6月15日刊行,東京大学出版会東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+349 pp., 本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5コンパニオン・サイト版元ページ

『ニルス・リューネ』読了

イェンス・ピータ・ヤコブセン[奥山裕介訳]
(2021年6月8日刊行,幻戯書房[ルリユール叢書],東京, 353 pp., 本体価格3,600円, ISBN:978-4-86488-220-0目次版元ページ

三ヶ月がかりでやっと読了.翻訳文学とはもともと無縁だったせいか,この言葉の海は泳ぎきるのはなかなかたいへんだった.ヤコブセンの作品を踏まえたシェーンベルクの〈グアの歌〉は知ってるけど,イギリスの作曲家フレデリック・ディーリアスがこの『ニルス・リューネ』の登場人物を歌曲〈フェニモアとゲアダ〉をつくったと書かれている(p. 350).ちょっと気になる.ヤコブセンによるチャールズ・ダーウィン種の起源デンマーク語訳はどこかで公開されていないかな.

『読む・打つ・書く』書評拾い(21)

三中信宏
(2021年6月15日刊行,東京大学出版会東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+349 pp., 本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5コンパニオン・サイト版元ページ

注文【ちゅうぶん】への注文【ちゅうもん】

東京大学出版会『UP』誌の最新号(2021年9月号)に須藤靖さんの長期連載〈注文【ちゅうぶん】の多い雑文〉の第55回が掲載されている:須藤靖 2021. 「ゥゥゥウウウーーーUFO! 注文の多い雑文 その五十五」, UP(2021年9月号), pp. 30-36.わざわざ「注が多い」と書かれているので,「ワタクシは想定読者ではないんだあ」といつもまたいで通り過ぎていた(すみません).今号もいつものように須藤エッセイを華麗にスルーしようとしたら,後注のひとつ —— 後注(12)「注の世界観」(p. 36)—— が「ちょっと待ったれやぁ」(高知弁でなくてすみません)と後ろから声を飛ばしてきた.「いやいや,ワタクシは何も失礼なことはしていませんのでお見逃しを」と逃げ腰で懇願したのだが,有無を言わさず読むことに.ワタクシ,本文はぜんぜん読んでません.この注だけ読んだんです.

 

須藤さんいわく:「とはいえ,これは世界観の違いなので,引き続きご容赦頂ければ幸いである.そもそも私のこの雑文には『読書の動線』などという概念は無縁ヤケンネ」(p. 36)とのこと.なるほどなるほど.ワタクシが『読む・打つ・書く』で「読書の動線」(pp. 69-70)について書いたとき,ワタクシの読書スタイルが “注マシマシ系” の文章とは相性がワルいことはわかっていた.「注なんか本文に丸ごと放り込め」という主義主張だからだ.多くの注文【ちゅうぶん】には多くの注文【ちゅうもん】をつけたくなる.これは確かに「agree to disagree」という言うしかない.

 

それはさておき —— この「注(12)」は本文中のどこにも「参照位置」が明示されていないようです.ワタクシはエッセイ全体を読んではいないのですが,これはひょっとして本文とは直接関係のない「独立系の注」あるいは「野生の注( “野良注” )」なんでしょうか.それはそれでワイルドな注の宇宙かもです.

『読む・打つ・書く』書評拾い(20)

三中信宏
(2021年6月15日刊行,東京大学出版会東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+349 pp., 本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5コンパニオン・サイト版元ページ