田中正明(編)
(2005年6月25日刊行,晶文社,東京, 331 pp., 本体価格4,800円, ISBN:4794966547)
【書評(まとめ)】※Copyright 2005 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved
これまで未発表だった家族宛絵葉書をカラー図版(全部ではない)で出版したもの.文章よりは,つい絵柄の方に目がいってしまう.国内外からの家族に届いた古い絵葉書には“絵”になる構図(風物・民俗・文化)が切り取られている.絵葉書ファンとか博覧会ファンには本書は必読でしょう.
柳田國男がたいへん子煩悩な父親であることを知る.また,國男の長男の妻である柳田冨美子による巻末エッセイ「絵はがきの心」は,家庭内の家族の視点から見た「柳田國男」が描かれている.“殿様”のごとき主人公は周囲にいろいろな(プラスマイナスの)強い影響を及ぼしていたのだろう.
切り取られた風景が絵葉書になっているのだが,既製品の絵葉書もあれば,手製のものもあるようだ.当時の柳田國男は,貴族院書記官長の「公務」の一環として方々を旅行したらしい.それにしても自筆がぜんぜん読めないぞ.
編者解説「柳田國男:旅と絵葉書」の中に,当時の〈絵葉書ブーム〉についての言及が関心を惹く.柳田國男は国内外の「塔」の絵葉書を熱心に蒐集していたそうだ(p. 314).時代を問わず,「塔」へのオブセッションは広く見られるということか.同時代の風俗の断片を切り取った“歴史資料”としての絵葉書の再評価は別として,遠隔地間の通信コミュニケーションの媒体として〈絵葉書〉が普及したのは19世紀後半のヨーロッパがはじまりだったと柳田國男は書いている(p. 313).日本でもたとえば竹久夢二のデザインする絵葉書がブームになったそうだ.確かに,この柳田書簡集やエルンスト・ヘッケルの絵葉書集を見ても(宛先の種類はそれぞれ全然ちがうのだが),“絵”や“写真”付きの葉書は,それを出した本人と受け取った相手にとって大切な交信の記録だったのだろう.
とてもおもしろくて充実した葉書集だ.晶文社はよくぞ出版してくれたと思う.ただし,カバージャケットの反対側の方がよりカラフルかも.
なお,初版では,図版のまちがい(209ページ)があるので(差し替えシートがはさまれている),買うなら第2刷以降を待った方がいいかもしれません.
三中信宏(20/August/2005)