『素数の音楽』

マーカス・デュ・ソートイ

(2005年8月30日刊行,新潮社,ISBN:4105900498



素数に関する「リーマン予想」をめぐる整数論の歴史.多くの数学者たちの伝記エピソードが綴られている.素数をめぐる数学史の本としてはとてもおもしろいと思う.ゼータ関数がびしびし飛び交うあたりで息絶えそうになったが.“じめじめしたゲッティンゲン”のヒルベルト教授が超モテモテ男だったとはね.リーマンはほとんど引きこもりな性格だったという.ラマヌジャンがインドからイギリスに行くことで,“数学的”にはとても幸せだったのかもしれないが,“人生的”には果たしてどーだったのだろう.

フェルマー予想〉の「ゼロ点の風景」がちらりと見えたり,また見えなくなったり.整数論と量子物理学が思いもよらぬ関係にあることがわかったり,ブーツストラップに関するエフロンとの共著論文があるダイアコニス(この人の経歴がおもしろい.大道芸人だったそうな)が登場したり,あちらの世界に逝ってしまったグロタンディークとか,こちらの世界に踏みとどまったナッシュとか,「ハッセ図」のハッセが戦時中はナチに協力していたとか,それはそれはいろいろな逸話が満載されている.〈素数の音楽〉はいつか聞こえるのかどうか

いまだに解決されていない〈フェルマー予想〉をめぐる数学史の本としてたいへんおもしろかった.ふしぎなほど数式が出てこなかったのだが,まともに「それを聴こう」とするのは覚悟がいるのかも.

内容とは関係ないのだが,500ページ近くあるのにこの価格(本体価格2,400円)だと,ずいぶん割安感がある.新潮社の〈Crest Books〉シリーズといえば,「文芸小説」ばっかりかと思っていたのだが,こういうノンフィクションもあるとは意外だ.〈Crest Books〉はその造本が気に入っているので(ダストジャケットを外した本体の“手触り”がとてもいい),こういうジャンルの本がこれからも出るのであれば要注目.Crest Books の「仮フランス装」の造本は持ち歩くのに適していると思う.個人的には,カバージャケットは脱がせて,本体だけ持ち歩くのがいい.