『プラハの古本屋』

千野栄一

(1987年3月20日刊行,大修館書店,ISBN:446921096X



【書評(まとめて)】

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この本は,著者の心情を考えると,徳永康元ブダペストの古本屋』(1982年4月30日刊行,恒文社,ISBN:4770404867書評)のに読むべき本なので,買ってからだいぶ時間が経ってしまった.

まずは第1部「沈黙の翻訳」.エッセイストとしてもとても有能だったのですね.そろそろ著作が絶版品切れになりつつあるので,心して集めておかないと.※著者が編集している三省堂の『言語学大辞典』(→参照)はすでに研究室にあるので,これは心配なし.

第2部「プラハの古本屋」.“ブダペストの徳永”と“プラハの千野”はやはりペアで読むべき本だと思う.呼応し合うところが多い.いずれも「1989年」以前の東欧の古書店風景について,いろいろと書かれている.稀覯書を前にしたとき,日本にいようがプラハにいようが,蒐書家の心理状態はあまり変わらないのか.

この本にカレル・チャペックの話題が多いのは当然のことだろう.そういえば,1995年2月25日〜27日に金沢大学理学部で〈系統分析に関する闇の講習会:第2幕〉を開催したとき,近江町市場に隣接していたホテルのすぐ近くに〈チャペック〉という喫茶店があった(もちろん今もある).たまたま見つけた店だったが(その筋では超有名な珈琲店であるとは露知らず),講習中は毎朝ここでコーヒーとトーストを食べていた.この店の名もカレル・チャペック由来だ.

こんなくだりがある ——




チェコの有名な作家カレル・チャペックは自分の作品の中で収集哲学を展開しているが,それによると蝶でも,切手でも,サボテンでも,きれいな気に入ったものだけを集めるのが女で,見ばえがせず,きたないものであってもぜんぶを徹底して集めるのは男だそうである.(p. 197)



第3部「カルパチアの月」.東欧を中心とする紀行文.鉄道旅行が多いのは著者の嗜好ゆえか.これで完読.このようなゆったりした文章が書けるのはうらやましいかぎりだ.あとがきにいわく:




今の私の願いは,この本が数多くの読者に愛され,捨てられることなく古本屋に売られ,そこで徳永先生の『ブダペストの古本屋』と並んで飾られることである.もしこのようなお店が発見できたら,弟子としてこの上ない光栄であろう.(p. 283)



すでにふたりとも鬼籍に入ってしまったが,ぼくの本棚ではちゃんと並べておくことにしよう.

三中信宏(19/October/2005)