『マラケシュの贋化石:進化論の回廊をさまよう科学者たち(上)』

スティーヴン・ジェイ・グールド

(2005年11月30日刊行,早川書房ISBN:4152086858 [上巻] / ISBN:4152086866 [下巻] ).



まずは上巻から.第1部〈古生物学誕生にまつわる逸話:化石の正体と地球の歴史〉の全3章と続く第2部〈創造の現在:三人の偉大なフランス人科学者は革命の時代にいかにして自然史学を確立したか〉の第4章を読む.計140ページほど.第2章の山猫アカデミーことアカデミア・デイ・リンチェイと,第4章のビュフォンの話がおもしろい.もちろん,それぞれポーラ・フィンドレンのいま並行読書中の本とジャック・ロジェのビュフォン伝を参照している.

第5章(ラヴォアジェ)と第6章(ラマルク)は長大なエッセイで,グールドの思い入れがありありと.いずれも見過ごされてきた科学史の「隅」に光を当てている.地質図に関するラヴォアジェの時空的推論をグールドは「フラットランド」からの超越にたとえている(pp. 150-151).ここで典拠になっている Edwin A. Abbottの本『Flatland : A Romance of Many Dimensions』(1884年刊行)は,Edward R. Tufte の図像言語テキスト『Envisioning Information』(1990年刊行,Graphics Press,ISBN:0961392118)の冒頭にも登場する古典だ.

一方,ラマルクは「体系構築の精神」とからめて論じられている.当時の“system”という言葉は現在とはずいぶん意味合いがちがっていたのだろう.

たまに読むグールド本は歩き読みするには分量的にもサイズ的にも最適かもしれないと思った.また,訳本には参考文献表が載っていなかったので,どーしたことかと思ったのだが(まさか削るわけがない),原本(『The Lying Stones of Marrakech: Penultimate Reflections in Natural History』2000年刊行,Harmony Books, ISBN:0609601423)を確認したら,やっぱりなかった.原書にあって訳本にないのは索引だけ.