『日本博物学史』

上野益三

(1973年11月10日刊行,平凡社,ISBN:なし)



年の瀬に天牛堺古書店から届く.この本は1948年に星野書店から初版が刊行された後,1973年に大改訂された版が平凡社から出された.平凡社版については,さらに1986年に「補訂版」(ISBN:458251202X)が出版されている.現在,講談社学術文庫の上野益三『日本博物学』(1989年1月10日刊行,講談社[学術文庫859],ISBN:4061588591)として出版されているのは,平凡社版の「日本博物学通史」の抜粋だ.平凡社版の800ページのうち500ページ弱を占めている「日本博物学年表」は残念ながら復刻されなかった.

先日,「[Q]: Can you help me to locate information about evolutionary ideas in the 18th and 19th century in Japan?」という質問が,基礎生物学研究所経由でコロラド大学から丸投げされてきた.ここのところ,こういうことにアタマを使っていなかったなあ.江戸時代の日本での“進化思想”ですかあ.後知恵的に考えて「あの人の論は実は“進化的”だった」というのはいくつかあるのだけれど,そういう論法を無制限に広げていいわけがない.意外に答えにくい問題かもしれない.とりあえず,「鎖国していた日本では,限られた学問的交流しか許されていなかったので,“進化思想”に類する思潮は育たなかったのではないか」というような返事を書いて返信した.

たとえば,西村三郎の大著『文明のなかの博物学:西欧と日本(上・下)』(1999年8月31日刊行,紀伊國屋書店ISBN:4314008504 / ISBN:4314008512書評)とか,上記の上野益三の博物学史本など,日本の「博物学」の歴史を論じた本は何冊かある.一方,日本の「進化学」の歴史というと,やはり明治になってからという舞台設定がふつうで,江戸時代(あるいはそれ以前)にまでさかのぼってということにはなりにくい.

例外的に,ピーター・J・ボウラー進化思想の歴史(上・下)』(1987年8月20日刊行,朝日選書335/336,ISBN:4022594357 / ISBN:4022594365)の上巻末に載っている,八杉龍一の「日本の思想史における進化論 —— ボウラー『進化思想の歴史』の訳書に寄せて」という論考(pp. I-XX),あるいはそれに先立つ彼の著書:八杉龍一『生命論と進化思想』(1984年8月10日刊行,岩波書店[科学ライブラリー],ISBN:4000055615)には,江戸時代の石門心学者・鎌田柳泓(1754〜1821)の名が“ジャパニーズ進化学先駆者”として挙っている.