『きだみのる:自由になるためのメソッド』

太田越知明

(2007年2月15日刊行,未知谷,ISBN:9784896421828

あまりにもタイミングがよすぎて,まるでピンポイントで狙いすまされた気がする.こういうかっちりした本のつくり方は未知谷ならでは.きだみのる少年の月島生活については,「prologue 2」で一言触れられている(p. 32).それにしても,若い頃の海外流浪ぶりが大胆というか,なんというか.

【目次】
prologue 1 飽和と蕩尽 — 自由であるためのフィールド 3

開高健のクローズアップ 5 /了解困難な生活スタイル 8 /封印解除の企み 11 /もう一面のきだみのる 13 /借金・蕩尽・逃亡は身についた技 16 /フランスの空気を伝える美青年 19

prologue 2 キールン・函館・東京 — 旅の装備 29

ジョセフ・コット — 人生の導き手 30 /ホメロス民族学 34 /四十歳近い給費留学生 39 /パリ,世界の中心都市で 43 /モース教室での優秀生 45 /“観察”を唯一の手法として 47

第1部 マラケッシュまで 51

1. パリ・ラバ — 異空間への誘い 52

封印された代表作 53 /『モロッコ紀行』の時代,禁書作家・ヴィオリス 57 /大戦前夜のヨーロッパ,植民地の問題 61 /北アフリカ,未知の文明の誘惑 67 /リオテー政策 71

2. 大西洋の町々 — 統治のかたち 77

サレの娘,最果ての商人たち 78 /植民地化のルート,本国資本の逃避 83 /パレスチナ問題の予見 87 /間接統治の要諦・三層構造の支配 89 /流浪する少年,モロッコの母 91 /コラージュの手法 94 /緋色の戦士・バラカを宿す者 97

3. マラケッシュ — ベルベルの栄光と衰退 100

至上現実 100 /優れた植民地統治とは 104 /植民地化と文明化 111 /アトラス — ホメロスの世界 116 /ベルベル王朝の盛衰 121

4. ウワザザット — 暑熱の中へ 125

阿片政策への提言 127 /光の空虚,心の歓び,旅のモチーフ 134 /さらに間接統治の詳細 137 /植民地支配 — 北アフリカと日本 142

5. リサニ — 沙漠に去った人々 146

名誉,自由,そして絶対不服従 147 /『モロッコ紀行』出版のプロセス 150 /キムラの手記,妻にとっての幸福とは 154 /愛の論理 158 /キムラとは誰か 163

6. クサル・エス・スーク — 自由の原理 165

統治政策 166 /民族の発展は血の上にある 171 /血を流すのは誰なのか 176 /翼賛知識人への批判 179 /自己革新による異文化受容 183

7. 東京 — 村への回路 187

旅 188 /帰還の地は変わった 191 /すでに村を見ていた 194 /同行者・ファーブル 198 /情事の挿話 202 /飽和と蕩尽 207

intermezzo モースの教室から 211

モース教室の日本人学生 212 /ミカドの聖性と古代ギリシア 217 /使者を殺害する文化,保護する文化 220 /汚穢と祓穢,階梯と距離 223 /ミカドはエンペラーではない 227 /『美の呪力』と『気違い部落周遊紀行』 230

第2部 村へ 235

1. 深層の日本へ 236

本物の日本人との出会い 238 /飢餓にさらされるとき 244 /麦と稗とかたつむり 249 /受容と排除とスパイ説 252

2. ミニマルな生のあり方 255

共同の繁栄は望まれない 258 /神の声より民の声 260 /権力のかたち 263 /選挙 — 祝祭と敗者の救済 266 /いつまでも決定しないことの意味 269

3. 極限を共同で生きる原理 276

部落主義者への変身 278 /ムラの制裁力 281 /親方というもの 285 /前代のコピー,集団制思惟 287 /国にも優先する存続 290 /村人の敵は村人 294 /古制社会の諸現象 298 /社会の最も強靭な基本単位として 300

4. 集落論の位置と範疇 305

集落モデルを普遍的な原理に 307 /そこに内在する民主制 310 /集落論の評価とその後 313 /生き延びた集落論 320 /仮説が到達していたところ 324 /「公」は神威か民主主義か 329

épilogue 小説のきだみのる 335

描かれたムラ八分 336 /神木の伐採,入り乱れる欲望 339 /“選挙”のテーマ 346 /もうひとつの敗北 347 /帰還なき航海者 353

きだみのる山田吉彦)総合年譜 [i - vi]