『のの字ものがたり』

田村義也

(1996年3月25日刊行, 朝日新聞社ISBN:4022567856



装幀を通しての著者へ編集者との交遊がいろいろ綴られている.司馬遼太郎がものしたという非売品の「大阪本」とか,坂口謹一郎の「酒」つながりとか.それほど遠くない昔は今よりもはるかに濃密な執筆者-編集者-装幀者のつながりがあったのだと推測される.なお,装幀家から見た「ISBN問題」とは,函やカバージャケットの裏に無粋な「数字」や「バーコード」が傍若無人に印字されることだった.

表紙の「字」をひとつひとつ刻む苦労が綴られている.著者が実際に装幀した本の書影がたくさん載っているが,どれを見ても“表紙買い”したくなるものばかりで困ってしまう.著者が築地書館の創業者・土井庄一郎と大学時代からの知り合いとは知らなかった.土井庄一郎『めぐりあいし人びと:築地書館の50年』(2006年3月26日刊行,築地書館ISBN:480671321X書評)にもきっと言及があるだろう(気づかなかったかも)

—— さて,『のの字』のあとは『ゆの字』が待っている.