『野生馬を追う:ウマのフィールド・サイエンス』

木村李花子

(2007年8月20日刊行, 東京大学出版会ISBN:9784130661584目次



第1章では北海道の根室沖の無人島を,第2章ではカナダのノバスコシア沖にあるこれまた無人島をフィールドにして,野生馬の生態と行動を観察する.第3章はケニアのシマウマ,第4章はインドのロバ.とりわけ,著者自身が本腰を入れて取り組んでいる,インドの雑種ロバ「アドベスラ」をめぐる物語はとても印象的だ.長年にわたって在の社会や文化にとけこんできたアドベスラは,ほとんど伝説の動物のようにつかみでころがなく,なかなかその正体を現さない.しかし,染色体数が異なる野生ロバと家畜ロバとの一代雑種としてのみ存在するアドベスラは,その気性の荒さと力強さでインド亜大陸の辺境でさらなる伝説を生んでいる.

著者が本書末尾に記しているように,「フィールド・サイエンス」という学問があり,それに従事する「フィールド・サイエンティスト」という研究者の活動の場は確かにこういうところにあるのだろう.躍動的な野生馬の写真と彼らを取り巻く人間社会を撮った写真がたくさん載っている.こういう本は最近あまり出ないが,野生動物誌の本としてもまた文化人類学の本としても楽しめる内容になっている.

馬も驢馬も縞馬もみんなたくましいな.もちろん,それを追いかけて観察してきた著者も.