『愉悦の蒐集:ヴンダーカンマーの謎』

小宮正安

(2007年9月19日刊行, 集英社新書[ヴィジュアル版005], ISBN:9784087204094目次



こういうテーマの本がここ数年新刊でときどき出ていることは知っていたが,新書になるとは.こわごわ覗きこむようなものか.また,解体された“リアル人形”だっ.第1章「遊べ!ヴンダーカンマー」を読了.怪しい蒐集物を溜めこむ妖しい部屋.カラー写真がうまく使われている.第2章「宇宙の調和を求めて」と第3章「術のある部屋」を読了.あやしさいっぱい.「Kunst」とは「芸術」にあらずとの著者の主張に惹かれる.

第4章「ヴンダーカンマー縦横無尽」は珍奇と怪奇に囚われた高貴なる人々の物語.ルドルフ二世とアルチンボルドはもちろん,アタナシウス・キルヒャーまで登場すれば配役としては十分過ぎる.病みつきになる人はいずこにもいらっしゃるということで.

続く第5章「バロックの部屋にて」は隠微で病的なオーラが漂ってとてもよろしい.こうでなければ(欲を言えばもっとカラー写真を載せればよかったのに).17世紀半ば,解体される美女の蝋人形づくりで名を売ったザンクト・ペテルブルクのフレデリク・ルイシュは,彼に続くフィレンツェのクレメンテ・スシーニらとともに,バロック時代の精神の系譜を体現している.

最後の,第6章「ヴンダーカンマーの黄昏」は主役の退場である.バロックからロココへの時代の流れとともに,横溢する蒐集精神がしだいになりを潜め,それに代わって博物館的体系化に基づく,整理されたキャビネットからミュージアムへの道が開けてきた.

装丁の基本が佐藤明『バロック・アナトミア』(2005年5月31日刊行,トレヴィル/河出書房新社ISBN:4309906370)と共通しているような.たとえば,黒字に白抜きのブラック・レターを配置したりとか.しかし,そういう外見的なことだけではなく,『バロック・アナトミア』が撮ったフィレンツェの「ラ・スペコラ」は,本書には載っていないもうひとつの“Wunderkammer”であることは確かだ.特に,本書の第5章で2冊の本が重なってくる.