『世界の測量:ガウスとフンボルトの物語』

ダニエル・ケールマン著[瀬川裕司訳]

(2008年5月20日刊行,三修社,334 pp.,本体価格1,900円,ISBN:9784384041071目次版元ページ



伝記的事実を踏まえた上での ein Roman.天文学者・数学者ガウス博物学フンボルトの伝記的記述が章ごとに交互に描かれていく.フンボルト兄弟の非凡さが印象的だが,もちろんガウスは数学の神童.息子がかわいそうかも.南米深奥で波乱万丈の冒険旅行をしたフンボルトの“変人ぶり”と,ドイツ国内にとどまって,いかにも“偏屈”で世間知らずなのに手が早いガウスとの対比が興味深い.ゲッティンゲン大学の学生はぼんくらばっかりと高名なこの天文学者・数学者は文句を言いまくる.

世界の測量をめぐるフンボルトガウスの仮想対話が目を引く.ガウス自然法則こそが真の暴君なのです」;フンボルト「しかし法則をつくり出すのは理性でしょう」;ガウス「理性は何もつくり出さないし,ほとんど何も理解しない」(p. 237)

実在の人物がときどき登場する.たとえば,ダゲレオグラフの開発者であるダゲールとか.南米大陸フンボルトともに歩いたボンプランはパラグアイで長く幽閉されたと書かれている.これも事実.

本書を読めば,きっと両主人公の評伝を手にしたくなるにちがいない.フンボルト伝は20年ほど前に白水社から出た伝記:ピエール・ガスカール[沖田吉穂訳]『探検博物学フンボルト』(1989年12月20日刊行,白水社ISBN:4560030170)が手元にあるが,ガウスの評伝が日本語で出ているのかどうかは確認していない.

Alexander von Humboldtについては,たまたま手元に:Gerald Helferich『Humboldt's Cosmos: Alexander von Humboldt and the Latin American Journey That Changed the Way We See the World』(2004年刊行,Gotham Books, New York, ISBN:1592400523 [hbk])という英語の伝記がある.Carl Friedrich Gaussについては手元にないが:G. Waldo Dunnington『Gauss: Titan of Science』(2003年刊行,Mathematical Association of America, ISBN:088385547X)という大きな評伝があるらしい.どちらもドイツ人なので,独語圏にはさらにたくさん伝記が出ているにちがいない.※ちょっと調べてみたら,確かにそうだった.