先日,日本生物地理学会宛の質問メールが転送されてきた.トンボの研究者として知られている故・朝比奈正二郎の著作目録を日本トンボ学会で作成しているのだが,生物地理学会に関係する可能性のある下記文献を探しているという担当者氏からの照会だった:朝比奈正二郎(1948)「華北の蜻蛉相」,日本生物地理学会記事,1: 26-28, 44.ぼくの手元には日本生物地理学会「会報」は創刊以降の号がコンプリートにそろっているが,「記事」という名の出版物は初耳だ.
もともとこの学会は,第二次世界大戦前から定期的に「会報」を発行し,臨時に「Biogeographica」という出版物を出してきた.しかし,敗戦の前後の混乱期には,学会としての出版がおぼつかなくなっていたことは事実だったようで,「会報」も戦中の1944年に出て,次の号が出る5年後の1949年まで“空白期間”ができてしまった.
上記の朝比奈の論文は,その発行年度が確かであったとしたら,ちょうどこの“空白期間”に出版されたことになる.敗戦により一時的に生物地理学会が崩壊寸前であったとは,個人的に聞いていたのだが,「会報」が出されなかったこの5年間に,公認されなかった学会出版物があったということだろうか.上記の「記事」には巻号が「1」と付されている.いつまでも出ない本家の「会報」の緊急避難的な代役として,あるいは「記事」と銘打たれた出版物が一時的にせよ配布されたのだろうか.
—— いずれにせよ,現物を手にしないことには推測の域を脱しない.