『図書館:愛書家の楽園』

アルベルト・マングェル著[野中邦子訳]

(2008年10月10日刊行,白水社,302+38 pp.,本体価格3,400円,ISBN:9784560026373版元ページ

原書:Alberto Manguel『The Library at Night』(2008年3月17日刊行,Yale University Press,New Haven,viii+376 pp.,ISBN:9780300139143 [hbk] → 書評目次版元ページ)を慌ただしく読み切ってしまったので,先日着便したまま机の上に未開封で放置してあった翻訳書をいよいよご開帳するときがやってきた.

原書は真っ黒な地の表紙に,暗い森の中に場違いに置かれたソファの傍のぼうっと灯されたランプに照らされて浮かび上がる読み手の背中という構図の写真があしらわれていて,実にアヤシイ雰囲気が醸し出されていた.『夜の図書館』という原題にふさわしいダストジャケットだった.それに比べると,翻訳書のカバーはずっと明るくしかも健康的な白地で,良くも悪くもニュートラルな装丁デザインに変身している.読書をめぐる“うしろめたさ”とか“罪深さ”を微塵も感じさせない.

この本には古今東西の実在した(しないものも含まれる)文学作品や人名・固有名詞が散りばめられている.さすがにこれほどの読書人には勝てるはずもなく,読んでいてときどき振り落とされることがあった.同じ著者による前著:アルベルト・マングェル[原田範行訳]『読書の歴史:あるいは読者の歴史』(1999年9月30日刊行,柏書房[叢書Laurus],354+38 pp.,本体価格3,800円,ISBN:4760118063書評・目次)を読んで以来,その複雑きわまりない知の迷宮には惹かれるものがあった.せっかく訳書を手にしたからには,脚注も含めて「個物」を愉しみましょう.

—— マングェルといえば,数年前に出た共著の『架空地名大事典』も実は手元にある.しかし,この大著をいったんひもといてしまえばワタクシの時間はきれいさっぱり消失してしまうにちがいない(ので,いまだに書棚の奥に安置してある).