『The Early Iconography of the Tree of Jesse』

Arthur Watson

(1934年刊行, Oxford University Press, London, xiv + 197 pp. + 40 plates → 目次

旧約聖書に登場する有名な「家系図」である〈エッサイの樹(the Tree of Jesse)〉の中世図像学に関する研究文献で,中世以前の古写本や建造物の図像がたくさん載っている.Webcat で見るかぎり国内では名古屋大学文学部にしか所蔵されていない本だ.

本書の第1章「The Virga in Literature」では,旧約聖書イザヤ書』の第11章の冒頭節「エッサイの根株より一つの若芽が生え,彼の根から一つの若枝が出て実を結ぶ.その上にヤハウェの霊が留まる(Et egredietur uigra de radice Iesse, et flos de radice eius ascendet. Et requiscet super eum spiritus Domini)」(p. 2:訳文は 関根清三『イザヤ書』1997年5月8日刊行,岩波書店旧約聖書VII],ISBN:4000261576)を全体の議論の出発点として,「エッサイの株(uirga Iesse)」が意味するものは何かを究明する.この〈uirga Iesse〉は,『創世記』第28章に出てくる〈ヤコブの梯子(scala Iacob)〉とともに,図像学的に興味深いと著者は言う.

しかし,著者が関心をもつのは,この〈uirga Iesse〉がどのような経緯で〈乙女マリア(uirgo Maria)〉につながるのかという点だ.著者の見解ははっきりしていて,「uirga」と「uirgo」とはもともとちがうことばだったが,12〜13世紀のころにこのふたつのことばは語形でも意味の上でも同一視されるようになったと言う.

まだ,ぱらぱら読みしているたけだが,ひとつ腑に落ちた点をメモ —— 家系図史の初期に登場する〈arbor iuris〉だが,なぜ「法(iuris)」ということばが付せられているのかが理解できなかった.しかし,本書では,〈arbor iuris〉が作成されたのは,いにしえのローマ法を遵守するキリスト教会が近親婚を防ぐ目的で,血縁関係を図式化したことにあると述べている(pp. 39-40).なるほどなるほど.