『新版 装釘考』

西野嘉章

(2011年8月10日刊行,平凡社平凡社ライブラリー741],東京,271 pp. + 24 color plates, 本体価格1,600円,ISBN:978-4-582-76741-4版元ページ

原本:西野嘉章裝釘考』(2000年4月15日刊行,玄風舎発行・青木書店発売,東京,ii+292 pp. + 72 color plates, ISBN:4-250-20025-6書評目次)に対する「増補改訂版」という位置づけの再刊.本文の改訂とともに,最後に「神原泰の装釘本」(pp. 230-239)という新たな項目が書き足され,それに対応する図版と文献が付加されている.その一方で,原本にあった「歴史の文字−記載・活字・活版」(pp. 263-274)というエッセイは削られている.

カラー図版は原本と比較して数がかなり減らされ,キャプションは巻末にまとめられている.原本では72枚あった図版が今回の再刊では1/3の24ページに削減されているのでしかたがない.それでも,それぞれの書影は平凡社ライブラリーの判型に比例して縮小され詰められているが,原本の雰囲気は伝わってくるだろう.個人的な好みでいえば,カラー図版のバックを灰色にしたせいで書影がやや見づらくなっている気がする.

著者の「平凡社ライブラリー版 あとがき」によると,原本は「A5版上製本カバー付貼り函入りで出版された元本は,刷り部数が少なかったことに加え,活版刷りの珍しさも手伝って,すぐに品切れとなった」(p. 263)そうである.また,巻末の解説記事:紀田順一郎「釘の思想」(pp. 265-271)には,「世のいわゆる豪華本や限定本とは距離を置いた,知的な離れ業的特製本という,本を知り尽くした著者ならではの造本だったのである」(pp. 265-266)と書かれている.

ワタクシが本書の原本をどこで入手したかといえば,京王線・南大沢駅前の書店の新刊棚に並んでいたのをたまたま手にしたからにほかならない.都立大に生物統計学の集中講義に行っていたときだった.本との出会いは一期一会.玄風舎版『裝釘考』はかなり高い本だったが,迷わずレジにお連れしたのは結果として幸いだった.紀田の解説記事にも書かれているが,玄風舎はこの『裝釘考』を出版したのみで消えた版元だった.そして,紀田のこの発言は,ワタクシが著者の西野さんから直接聴きだした証言とも合致している.南大沢で手にしなければ二度と出会えなかった本ということだ.一期一会.出会った本は迷わず買うべし.

—— いささか皮肉な言い方になるが,今回の再刊は,物理的な「モノ」としての本のちがいをまざまざと見せつける.文字テキストや情報だけが「本」を構成しているのではないことは,旧『裝釘考』と新『装釘考』とを実際に手にすれば誰もがそれを実感するにちがいない.その意味で,玄風舎版の旧『裝釘考』と平凡社ライブラリー版の新『装釘考』は別々の「本」だと考えた方がいいだろう.『新版 装釘考』を手にした読者は玄風舎版『裝釘考』をどこかで手にすることで,初めて本書の読書が完結することになる.