『月刊みすず(no. 601:2012年1-2月合併号)』

(2012年2月1日発行,みすず書房,東京,本体価格300円 → 版元ページ

この「読書アンケート特集」号の p. 64 に掲載されているワタクシの選んだ5冊は下記の通り:

【書名】イメージの網:起源からシエナの聖ベルナルディーノまでの俗語による説教
【著者】リナ・ボルツォーニ[石井朗・伊藤博明・大歳剛史訳]
【刊行】2010年12月25日
【出版】ありな書房,東京
【ISBN】ISBN:9784756610164
【目次】http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20110714/1310860543
【書評】http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20110715/1310945191
【短評】15〜16世紀の中世イタリアにおいて知識がどのように「視覚化」されたかを論じた著作.とくに,その視覚化に用いられたさまざまな「図的言語」(ダイヤグラム系統樹・階梯・図表など)の起源と歴史に焦点が絞られている.後世の生物学や言語学で多用されたツリーやマップなどの視覚化ツールがどのような歴史的文脈のもとに生まれたのかを知る上で貴重な情報源である.概念史の系譜は思わぬところに姿を見せる.


【書名】Naming Nature: The Clash between Instinct and Science
【著者】Carol Kaesuk Yoon
【刊行】2009年刊行
【出版】W. W. Norton, New York
【ISBN】ISBN:9780393061970
【目次】http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20100227/1267346834
【書評】http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20110731/1312101501
【短評】ヤーコプ・フォン・ユクスキュルが造語した「ウムヴェルト(環世界)」の概念を手がかりにして,生物多様性の理解をめぐる根本的な問題に光をあてる.著者は生物の分類体系構築をめぐっては,ヒトとして本来もっている認知心理的なグルーピングの先天的傾向性と科学的な分類学・系統学が支持する結論との間で根本的な衝突が生じていると指摘する.本書の翻訳はNTT出版から刊行される予定である.


【書名】越境する書物:変容する読書環境のなかで
【著者】和田敦彦
【刊行】2011年8月5日
【出版】新曜社,東京
【ISBN】ISBN:9784788512504
【目次】http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20110921/1316471843
【書評】http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20110924/1316810855
【短評】前著『書物の日米関係:リテラシー史に向けて』に続く本書は,歴史的実体としての「本」をめぐる社会的文脈の広がりと深みを数々のケーススタディーとともに明らかにする.「フィジカル・アンカー」としての本・書棚・図書館が果たし得る役割とは何か.モノとしての書物の存在は,たとえ物理的なかたちのない電子本が普及しつつある現在にあっても,目の前から消えてはいないと著者は強調する.


【書名】親切な進化生物学者:ジョージ・プライスと利他行動の対価
【著者】オーレン・ハーマン[垂水雄二訳]
【刊行】2011年12月20日
【出版】みすず書房,東京
【ISBN】ISBN:9784622076667
【目次】http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20111221/1324726573
【書評】http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20120124/1327220548
【短評】進化学者ジョージ・プライスの初めての伝記.1970年代に彼が導いた「共分散公式」は,複数の自然淘汰レベルを設定することにより,進化学上の難問だった利他行動がどのようにして進化できたかを説明する理論的な礎を築いた.そのような輝かしい業績の残したながらも,プライスが行き着く悲劇的な結末を豊富な資料や家族へのインタビューなどを通じて解明していく.綿密な考証に支えられたみごとな伝記.


【書名】悪い娘の悪戯
【著者】マリオ・バルガス=リョサ[八重樫克彦・八重樫由貴子訳]
【刊行】2012年1月5日
【出版】作品社,東京
【ISBN】ISBN:9784861823619
【書評】http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20120105/1325684271
【短評】ペルーからパリへ,ロンドンを経て東京へ,再びパリに戻って最後はマドリッドと舞台を移しつつ絡みあう良き男(ニーニョ・ブエノ)と悪き女(ニーニャ・マラ)の40年に及ぶ愛憎物語.まさにサントメールのランベールが『花の書』(12世紀)に描いた美徳の樹(アルボル・ボナ)と悪徳の樹(アルボル・マラ)の対を髣髴とさせる.その根を絡みあわせた二本の樹が互いに相手を見つめつつ正反対の向きに変貌していくように,ふたりの主人公は人生航路を重ねていく.ふだん小説は読まないが本書は例外にして別格.


三中信宏:2012年2月3日]