『Abductive Reasoning』

Douglas Walton

(2004年刊行,The University of Alabama Press, Tuscaloosa, xvi+303 pp., ISBN:0817314415目次版元ページ

先日,たまたまあるブログの記事:本に溺れたい「過去を探索する学問モデル」(2012年2月5日)を読んだ.推論様式としての「アブダクション」を「法学的思考(forensic thinking)」と関連づけるのはとてもいい視点だ.Douglas Waltonの本によれば,アブダクションに関する研究は1990年代の人工知能(AI)分野で活発に研究されたが,それとは別の系譜があったという.Charles S. Peirce が第三の推論様式としてのアブダクションを提唱したのとほぼ同時期の19世紀後半,法学分野では証拠に基づくベストの説明への推論方法として事実上アブダクションと同一のものが確立されていたとのこと(pp. 22-26).

一方,数理統計学の立場からは,有名な統計学者 C. R. Rao はまさにこの「法学的態度(forensic attitude)」が統計的思考にとって必須であると述べている: Foreword (pp. xi-xiii) in : M. L. Taper and S. R. Lele (eds.)『The Nature of Scientific Evidence: Statistical, Philosophical, and Empirical Considerations』(2004年刊行,The University of Chicago Press, Chicago, xviii+567 pp., ISBN:0226789578 [pbk] → 目次版元ページ).系統学・統計学・法学における共通の思考法としてのアブダクションの採用はとても興味深い

—— 孔子「真正的知识是知道无知的程度(Real knowledge is to know the extent of one's ignorance)」.※C. R. Rao が上記の巻頭言で引用していた孔子の格言.