『古酒新酒』

坂口謹一郎

(1974年11月20日刊行,講談社,東京,302 pp. → 目次情報

第一部「世界の酒」と第二部「日本の酒」を読了した.中国・ソヴィエト・スペイン・イギリスと世界中飲み歩き.味わい深い酒の本.日本酒だけでなく,焼酎や泡盛まで含む「もやしもんエッセイ」の数々.「いずこへ行くかわれらの酒」(pp. 163 ff.)は日本酒の来し方行く末を論じ,「焼酎 —— 日本の酒の盲点」(pp. 179 ff.)では焼酎のもつ魅力を説き,さらに「君知るや名酒泡盛」(pp. 199 ff.)では,泡盛の黒麹を求めて南西諸島の蔵元を探しまわった日々が綴られる.

第三部「酒と人」.中国の漢詩や日本の短歌・俳句をめぐる酒噺.さらに個人的なつながりなど.「酔話の魔力」(pp. 235 -240)に引用されている陶淵明「雜詩其一」の一節:「愉快なことがあれば楽しみをなすべきだ,一斗の酒で近隣を招き集めよ,若い盛りは二度とこぬ,一日に二度の朝があるわけではない,時におくれずせい出して遊ぶべきだ,年月は人を待ってはくれぬ」(青木正児訳)に関して,「みなぎる力強い無常観はまさに仏教思想そのものともみられましょう」(p. 236),さらに「酒はしょせん寂しい人,悲しい人のためのものであるようです」(pp. 236-237)と続く.陶淵明「雜詩其一」にある「盛年不重來/一日難再晨/及時當勉勵/歳月不待人」の「勉勵」とは,「勉学に励めよ」という意味ではなく,「徹底的に飲まんかい」ということか.陶淵明,えらい! また,「世捨て酒:芭蕉翁と酒」(pp. 252-274)では,俳句から類推される芭蕉が飲んだであろう酒について語り,「酒と短歌」(pp. 275-282)では,短歌に詠まれた酒造りのようすに触れる.

—— 勢いで,坂口謹一郎酒学集成(全五巻)』(1997年〜1998年,岩波書店,東京 → 版元ページ)のオンライン発注をしてしまった.