『酒の書物』

山本千代喜

(1955年12月10日刊行,龍星閣,熱海,553 pp.)

古今東西のお酒のネタ本.函入り.原書は1941年出版.山本千代喜は創元社の雑誌『嗜好』の編集長を務めた人.かつての活版印刷で造本されたクロス装丁本.背は日焼けしていても風格が滲み出る.古今東西の酒に関する書物からさまざまな言い伝えや逸話を蒐めた雑誌連載記事を単行本化したもの.本書の初版が出たのは第二次世界大戦の真っ最中の1941年のこと.時節柄「酒が飲めない時代」だったにちがいない.だからこそ酒また酒また酒.

前に読んだ青木正児『酒の肴・抱樽酒話』(1989年6月16日刊行,岩波書店岩波文庫・青165-2],東京,238 pp., ISBN:4003316525版元ページ)が中国と日本の “酒話” を蒐めたものとすると,本書はイギリスからヨーロッパにかけての “酒話” にターゲットを絞ったことになる.

本書に登場する “酒話” もまたどれも薀蓄傾けまくりで類書にない話題が取り上げられている.たとえば,「ビボ・エルゴ・スム」(pp. 70-71)を読む.William Juniper の『The True Drunkard's Delight』(1933)から取られた「Bibo, ergo sum」という引用 ―「我呑む.故に我有り」.けだし名言だなあ.550ページもある大著なので,まだしばらくは楽しめそう.