『新装版・亡命ロシア料理』

ピョートル・ワイリ,アレクサンドル・ゲニス[沼野充義北川和美・守屋愛訳]

(2014年11月25日刊行,未知谷,東京,231 pp. + 8 plates, 本体価格2,000円, ISBN:978-4-89642-458-4版元ページ

“亡命” と枕詞が付くだけでこんなに深みが出るとは.日本人がよく耳にする「ピロシキ」「ボルシチ」「ペリメニ」などの背後に広がるロシア料理の世界を “亡命先” でつくろうとする.あるときは憧憬,あるときは屈折しつつ,なお自らの食のルーツからは逃れられない.「壺こそ伝統の守り手」と「キノコの形而上学」を読めば,ひょっとしてかつて食べたことがある「壷焼きキノコ」はロシア料理の真髄の一部分だったのかと妙に納得したり.キャベツのシチーとか川魚のウハーなどのスープは未体験ゾーンと知ったり.また,「メンチカツの名誉回復」や「なまけ者のためのペリメニ」を読めば食欲増進.「毎日がお祭り」に出てくる「プーシキン風ポテト」もダイレクトによさげ.料理名から中身や味が想像できたりできなかったりする安心感と不安感のミックス.

ボルシチ」などに必ず添えられているサワークリームは “スメタナ” と呼ばれていることを初めて知った(「スメタナを勧めたな!」).チェコの音楽家スメタナと紛らわしいなと思ったら,キリル文字だと同一の綴り(「Сметана」)になってしまう.スメタナはロシア料理の “潤滑油” として不動の地位を占めているらしい:「とてもおいしくて有名なロシアのスープには,みんなスメタナが入っている.シチーにも.ソリャンカにも,塩漬けきゅうりの入ったラソーリニクにも,オクローシカにも,ヴォトヴィニヤにも」.ぜんぜん知らないロシア料理の世界が広がっていてわくわくする.

ワタクシ的につくってみたい料理は「アメリカとロシア,その最大の違いは?」に出てくる “甘酢っぱ料理” .ロシア黒パンを水で粥状にほぐしたものを,あらかじめヘットで煮込んだ牛肉に加えるという(かなり背徳度の高そうな)一品.白パンしかないアメリカにロシアが勝った瞬間.

参照:Togetter -「『亡命ロシア料理』に寄せられた感想