『The Future of Phylogenetic Systematics: The Legacy of Willi Hennig』

David M. Williams, Quentin D Wheeler, and Michael Schmitt (eds.)
(2015年刊行予定, Cambridge University Press, Cambridge)

一年がかりの book chapter 原稿をやっとロンドンに旅立たせた.これにて本件の大┣┣" は去っていった.一昨年ロンドンの The Linnean Society で開催されたシンポジウム〈Willi Hennig and the Future of Phylogenetic Systematics〉がもとになっているこの論文集は,今年中に出版されるだろう.

ワタクシが寄稿した章は MINAKA Nobuhiro: Chain, Tree, and Network: The Development of Phylogenetic Systematics in the Context of Genealogical Visualization and Information Graphics.系統体系学(生物・写本・言語)における可視化の歴史とその理論的変遷について論じた.英文の book chapter を書くのは実はこれが初めてだったので,とてもいい経験になった.書く言語がちがうと「別人」になれるかと思いきや, “地” が同じなので,内容的にはそんなに変わらない.ただし,文体的には有意差あり.日本語で書くときと比べて,悪名高いワタクシの晦渋さが大幅に軽減されている.きっと英語で書く能力と正の相関があるからにちがいない.

今回の book chapter はデータ解析的な論文ではなく,科学史的な内容が主なので,日本語でいつも書いている文章の延長線上になめらかにつながる.編者と校閲者による英文修正は施されているけど,日本語の元原稿を “英訳” したわけではないので,英文表現としてブロークンなところはきっとあるだろう.いつもなら “和訳” しなければならない箇所が原文のママで使えるのでかえってラクかもしれない.他方,文中のドイツ語引用文を英訳するというのはとてもスリリングだった.

ワタクシの場合,ほとんどいつも単著で論文や本を書くので,調子がいいときは快調に書き進んでも,いったんスランプに陥ると目も当てられない.今回の book chapter も途中ぜんぜん書けなくなってしまった.今だったら「Write a lot !」をスローガンにして書き続けるところだ.

めずらしい体験をすると本題とは関係のないところがむしろ気になる:

  • 日本語だと「字数」で執筆進捗をモニターできるが,英語だと「語数」が基準.なかなか実感が湧いてこない.いっそテキストの「バイト数」で統一すればいいか.
  • Book chapter 原稿にも,通常の査読雑誌と同様の匿名レフリーがつくことを今回知った.大手の学術出版社から出る専門書の原稿は必ず査読者が読むと前に聞いていたが,確かにその通りだった.
  • 編者による原稿督促のスタイルもとても勉強になった.独特の婉曲的な,それでいて決然と尻を叩くクイーンズ?イングリッシュ.

最終(のはずの)原稿を見なおしたらマイナー “蟲” がなお数頭うごめいていた.いつものことながらバグの根絶はムリですな.あとはケンブリッジ大学出版局校閲部におすがりするしかない.