『大正時代の沖縄』

R・ゴールドシュミット[平良研一・中村哲勝訳]

(1981年3月27日刊行,琉球新報社[発行]/那覇出版社[発売],沖縄, 175 pp. → 目次

高名な動物遺伝学者にして「hopeful monster」説の提唱者としても有名な Richard Goldschmidt による旧日本領紀行文集『Neu-Japan: Reisebilder aus Formosa den Ryukyuinseln ・ Bonininseln ・ Korea und dem südmandschurischen Pachtgebiet』(1927年刊行,Verlag von Julius Springer, Berlin, VIII+303 S mit 215 Abbildungen und 6 Karten → 書評目次)所収の琉球列島「Die Ryukyuinseln」(pp. 111-208)を抄訳した本.そのほとんどは沖縄本島に関する自然・民俗・産業・宗教に関する記述である.原書ではコントラストがもっとはっきりした明瞭なモノクロ写真だが,本訳書の写真は画質が著しく劣化していて,細部が判読できないのは残念だ.

原著者は行く先々で地元民と幅広く交流したようだ.およそ90年前の沖縄や首里の街や人についての記述は,後の第二次世界大戦で大きく損なわれることになった事情を考えれば,重要な歴史記録なのだろう.私が数日間滞在した泉橋あたりのかつての風景も撮られていて興味深かった(pp. 86-87).沖縄戦で破壊されてしまった首里城の元の姿も写真に残されている.原著者は詳細な地名や建物の固有名まではきっちり記していないようだが,訳者はそれらの多くを特定している.

原書の他の章である台湾「Formosa」(pp. 5-110),小笠原諸島「Die Bonininseln」(pp. 209-234),朝鮮半島「Korea」(pp. 235-200),そして南満州租借地「Das südmandschurische Pachtgebiet」(pp. 291-303)も貴重な記録をきっと含んでいるのだろう.