『書楼弔堂 破暁』

京極夏彦
(2013年11月30日刊行,集英社,東京, 500pp., 本体価格1,900円, ISBN:9784087715408版元ページ

冒頭章「探書壱:臨終」(pp. 7-88)から:

  • 「知見が欲しいのであれば,借りて読もうが立ち読みしようが同じことです.一読理解しさえすれば,それで済みます.でも,本はいんふぉるめーしょんではないのですよ」(p. 35)
  • 「言葉は普く呪文.文字が記された紙は呪符.凡ての本は,移ろい行く過去を封じ込めた,呪物でございます」(p. 38)
  • 「書き記してあるいんふぉるめーしょんにだけ価値があると思うなら,本など要りはしないのです.何方か詳しくご存じの方に話を聞けば,それで済んでしまう話でございましょう.墓は石塊,その下にあるのは骨片.そんなものに意味も価値もございますまい.石塊や骨片に何かを見出すのは,墓に参る人なのでございます.本も同じです.本は内容に価値があるのではなく,読むと云う行いに因って,読む人の中に何かが立ち上がる ―― そちらの方に価値があるのでございます」(p. 40)
  • 「本から立ち上がる現世は,この,真実の現世ではございません.その人だけの現世でございますよ.だから人は,自分だけのもう一つの世界をば,懐に入れたくなる」(p. 41)
  • 「人には,そうしたことがある.理屈では間違いと解っていると云うのに,如何しても塗り替えられぬ認識と云うのはあるものなのでございます」(p. 71)
  • 「幽霊は居りませんが,居らずとも見えるものなのでございます.」(p. 73)