『造形思考(上・下)』

パウル・クレー土方定一・菊盛英夫・坂崎乙郎訳]
(2016年5月10日刊行,筑摩書房ちくま学芸文庫・ク25-1, ク25-2],472+350 pp., 本体価格1,600+1,500円, ISBN:9784480096012 [上巻] / ISBN:9784480096029 [下巻] → 目次:上巻下巻|版元ページ:上巻下巻

本書は,美術・デザインはもちろん物理学・光学・生物学・音楽まで含む内容で,しかも文字と図版が切れ目なく渾然一体と化している.「アクティヴ―パッシヴ」「静―動」「冷―暖」など対比図式がポイント.『造形思考』の根幹は静的な「フォルム」ではなく動的な「造形」にあると著者は強調する.生物の形態学に関わる構造と機能の論議を知っていれば線や図形の運動や停止のイメージがつかみやすいかもしれない.何となく幾何学的形態測定学に近縁であるような気がした箇所も下巻にはあった.下巻最後の色彩論の章とりわけ平面上に色彩を対称的に配置する「全体性の輪唱【カノン】」の部分は,スクリャービンの「音―色彩」の共感覚体系を見ているようで,交響曲〈プロメテウス〉の幻聴が向こうの世界から聞こえてくるような.訳すのはさぞかしたいへんだったろうが,読むのも気力と体力が要るかもしれない.