『醤油』(第1〜4章)

吉田元
(2018年3月15日刊行,法政大学出版局ものと人間の文化史・180],東京, 2 color plates + iv + 269 pp., 本体価格2,600円, ISBN:9784588218019目次版元ページ

ベッドサイド本として少しずつ読んでいる.日本酒の歴史には関心があったが,醤油や味噌についてはこれまで注意を払わなかった.本書の前半4章は日本での醤油醸造の歴史がたどられている.

最初の第1章「調味料の誕生」(pp. 1-35)では,発酵調味料としての “醤【ひしお】” の総論から始まり,日本を含む東アジア文化圏での魚醤・草醤・肉醤・穀醤のタイプ分けが解説される.日本で現在まで残っているものは秋田の “しょっつる” や石川の “いしり” などごく少数の魚醤を除けば,他はすべて穀醤すなわち醤油だそうだ.本章の後半は醤油の醸造工程の説明に当てられている.日本酒醸造だと “醪” と表記されるが,醤油醸造では読みは同じでも “諸味” と書かれる.両者の違いは以下の通りだ:

「日本酒醪との大きなちがいは,醤油の諸味には一六%程度の食塩が含まれていることで,そのため好塩性の微生物しか増殖できない.したがって防腐の点では,日本酒よりもずっと有利といえる」(pp. 27-28)

つまり,かつての日本酒醸造にありがちだった “腐造” のリスクが醤油醸造にはなかったということだ.

続く第2章「古代日本の調味料」(pp. 37-47)と第3章「室町・戦国時代の調味料」(pp. 49-75)では,現存する醤油醸造に関する古文書などをふまえ,かつての日本ではどのようにして醤油(に類する発酵調味料)が造られてきたのかを推測する.第3章では醤油・味噌・納豆を含む大豆発酵食品の系統図が描かれている(p. 58).この図では,「大豆が原料」&「麹菌の使用」という共有派生形質に束ねられた大豆発酵調味料の単系統群の中に醤油が含まれている.

第4章「江戸時代の醤油」(pp. 77-113)では,江戸時代以降の日本各地での醤油醸造業の盛衰を論じる.現在も続く醤油名産地とその蔵元は江戸時代にルーツをもっていた.関西では京都・湯浅(和歌山)・小豆島・龍野・大野(石川)が,関東では野田・銚子・土浦が醤油醸造のさかんな土地だったとのこと.土浦の醤油メーカーと言えば本書にも記されている〈柴沼醤油醸造〉が現存する唯一の蔵元だ.近隣のスーパーにもここの主力商品である〈紫峰〉が置かれている.

江戸時代まで下ると,さすがにいろいろな文献資料が残されているようで,醤油の醸造製法に関しても工程の詳細がわかるとのこと.醸造の手順が記録されていれば,“祖先醤油” を実際に復元することが可能になる.第4章の最後では「下り醤油」すなわち上方から東国に下ってきた醤油の復元された事例を紹介している(pp. 107-111).その伝統的方法で仕込まれた醤油は,現在の官能食味試験の基準では,塩分が強すぎて「塩味が立つ」(p. 111)とマイナス評価を受けるとのこと.