『下丸子文化集団とその時代:一九五〇年代サークル文化運動の光芒』(第3章まで)

道場親信
(2016年10月25日刊行,みすず書房,東京, viii+412 pp., 本体価格3,800円, ISBN:9784622085591目次版元ページ

第3章「無数の「解放区」が作り出したもうひとつの地図――東京南部の「工作者」たち」は,先行する長大な歴史叙述としての第2章を踏まえた論考.ワタクシにとってむしろ興味深かったのは,短い補章「サークル運動の記憶と資料はいかに伝えられたか」だ.第二次世界大戦直後に始まるサークル活動が遺したアウトプット(出版物・ビラなど)は容易に散逸してしまってもしかたがなかったはずだが,下丸子文化集団ではその活動の歴史を残そうとする気運とそれを主導する関係者が複数いたと著者は指摘する.たとえば,城戸昇は1950年代の10年間に及ぶこのサークルの資料蒐集に努めた:

城戸の方法の特徴は二つあり,「年表」と「地図」というキーワードに集約できる.「年表」というのは,文字通りの年表づくりである.この城戸の試みが完結したのはようやく一九九二年のことであるが,彼は文学,自立演劇,うたごえ等のテーマ別に年表を作成することから始め,最終的に諸分野を網羅した年表の作成に到達した.「地図」というのは,グラフィックな意味での地図づくりもさることながら,東京南部の街区ごとに文学者の事跡やサークル文化運動の足跡を記録していく作業をいい[以下略](p. 210)

著者は,城戸のこのスタイルについて次のように述べている:

こうした城戸の研究は,「年表」による時間の空間化と「文学地図」による空間の時間化というふたつの作業によって成り立つものと言えるだろう.(p. 210)