『謎のカラスを追う:頭骨とDNAが語るカラス10万年史』読売新聞書評

中村純夫
(2018年12月6日刊行,築地書館,東京, 12 color plates + 268 pp., 本体価格2,400円, ISBN:9784806715726目次情報版元ページ

ワタクシの読売新聞書評(2019年1月20日掲載|jpeg)が〈本よみうり堂〉にてオンライン公開された.

 日本人にとって身近な都市鳥である真っ黒なハシブトガラス。著者はこのカラスとその近縁亜種の分布域を見極めるために、北海道から宗谷海峡を超えてサハリンへ渡り、さらには対岸のウスリー川からアムール川にいたる大陸沿岸地域まで足を伸ばした。

 

 大学や研究機関に属さない「独立研究者」である著者は、私費を投じ、海外踏査に伴うさまざまな関門をくぐり抜け、偶然の幸運にも助けられつつこの野外調査をやりとげる。運よくカラスを撃ち落としても、肉を剥がして頭蓋骨を取り出すという手間のかかる作業が待っている。人跡もまれな荒涼たる北辺の地を現地の共同研究者やハンターとともにカラスを追い求めた日記は、同時に、極東ロシアの現状の詳細な記録でもある。

 

 予期しない調査車両の故障、大事故につながりかねない道路の陥没、そしていたるところでの治安問題など数々の冒険と危険が隣り合わせの調査の末に、著者はどのようなカラスの「進化」を読み取ったのだろうか。形態データと分子データを踏まえた最新の生物地理学研究の一端をうかがい知る興味深い新刊だ。(築地書館、2400円)

 

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年1月20日掲載|2019年1月28日公開)