『ブルキナファソを喰う:アフリカ人類学者の西アフリカ「食」のガイド・ブック』読売新聞書評

清水貴夫
(2019年2月1日刊行,あいり出版[地球のナラティブ],京都, 8 color plates + 282 pp., 本体価格1,800円, ISBN:9784865550665目次版元ページ

読売新聞大評出ました(5月7日オープンされた):三中信宏ブルキナファソを喰う!…清水貴夫著 あいり出版 1800円」(2019年4月21日).



アフリカはおいしい

 快著すぎて食欲がどうにも抑えられなくなる。西アフリカの「ブルキナファソ」と言われてもその国の位置が西海岸に面したリベリアコートジボワールの内陸側で、サハラ砂漠の南側にあると即答できる人はほとんどいないだろう。本書はこの国で長年にわたってフィールド調査を行ってきた文化人類学者によるブルキナファソ食文化ガイドブックだ。日本にいると想像もできない数々の現地料理を著者みずからがものすごい勢いで食べまくっている。

 たとえば、主食にしてソウル・フードである練粥の「ト」はメイズ(トウモロコシ)やソルガム(シコクビエ)の粉からつくられる。本書にはそのくわしいレシピもちゃんと載っている。さらに、スプーンも折れる牛皮の煮込み、西アフリカ納豆のスンバラを混ぜこんだ米飯、たっぷりの油で炊き上げた油メシ(リ・グラ)など、著者の豊富な食体験は読者を惹きつけること請け合いだ。

 巻末には著者がたびたび滞在したブルキナファソの首都ワガドゥグのレストラン・ガイドが載っている。よく見かける観光グルメガイドマップの体裁で、たとえ実際にこの赤い大地の国に立つ機会がなくても臨場感は高まる。地球は広いなあ。

 西アフリカならではの独自の食材と調理の記録はもちろん魅力的だが、本書はブルキナファソの食文化の背後にある国内部族間の複雑な力関係や近隣諸国(特にセネガル)からの歴史的影響についてもくわしく論じられている。食文化がその伝搬過程でいかなる変容と多様化をもたらすのかという一般的なテーマにもつながっており、文化人類学者としての視点が随所でするどく光る。

 また、ところどころに挿入されている自伝的エッセイや研究日録の断片から、日本とアフリカを行き来し続けてきた著者の研究生活の喜びと苦労がひしひしと伝わってくる。著者は人生の良きパートナーである“プリンの主”にもっともっと感謝しないといけないんじゃないかな。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年4月21日掲載|2019年5月7日公開)



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