『記憶の箱舟:または読書の変容』読了

鶴ヶ谷真一
(2019年5月30日刊行,白水社,東京, 260+xii pp., 本体価格2,800円, ISBN:9784560097014目次版元ページ

書物と読書と記憶をめぐって東洋と西洋を行き来する.キーワードは:書物・素読・記憶術・索引.注目される対比は:音読/黙読・修道院/寺院・ムネモシュネ/虚空蔵菩薩柳田国男西行法師が記憶術で結びつく意外性.

印象深い一節あり.『五月雨草紙』からの引用:

「博覧強記,凡そ天下の書に於て読まざる所なし.壮年の頃は一旦夜に書籍の厚き一寸ずつを読まれたり.冬夜,燈火の上に酒銚子を釣り下げて置く.時は深更に至り,寝に就く時は微温にして丁度燗せし程になりしといふ.其の頃は雑書を博く読む事流行して,読む毎に必ず抄録する事なり」(p. 130)

極楽の情景.こういう心の余裕があって初めて読書は成り立つ.読むことと書くことは車の両輪だ.