『生きもの民俗誌』序章〜第I章メモ

野本寛一
(2019年7月30日刊行,昭和堂,京都, xviii+666+xxiii pp., 本体価格6,500円, ISBN:9784812218235目次版元ページ

とても重い本だが,出張先のサッポロの街を連れ歩いた.

序章「天城山麓のムラから」を読んだだけでもう引き込まれている.生きものをめぐる精緻な indigenous system of knowledge がここにある.

第I章「獣——ケモノ」(pp. 17-355)は「鹿」の節(約100ページある)から始まる.鹿の “生き角” と “死に角” の使われ方の違い(漁業に用いられている),生き血の利用法(猪と鹿では血の使い方がちがう),鹿肉のさまざまな調理法など民俗動物学の話題が次から次へと湧き出している.「鹿」の節をやっと読了.鹿の民俗と祭祀に関する情報量がハンパない.同時に近年の “異常繁殖” の異常さも具体的によくわかる.

続く第I章「熊」の節へ.これまた100ページもある.熊と人との関係は多重的.鹿よりも熊の方がより “神がかる” ように感じられるのはマタギ文化のせいか.最後にはプーさんやくまモンも登場する.

第I章「猪」の節を読了.イノシシは食用動物だったことを知る.備忘メモ:「案山子=嗅がし」「ヌタ場の禁忌」「ツナヌキ」「臼杵の猪の窟」,猪はマムシもハブも喰ってしまうと書かれている.なお,イノシシが泥浴びする “ヌタ場” の民俗については:柳田國男・倉田一郎(編)『分類山村語彙』(1941年5月15日刊行,信濃教育會,長野, 4+410 pp. → 目次国立国会図書館デジタルコレクション)にも項目(pp. 34, 222)が立てられていた.

第1章「鹿」「熊」「猪」を読み終えてようやく300ページを越えた.しかし,まだ全体の半分にも達していない.それどころか,第1章が残り50ページ以上もある.長距離走というか持久戦というか.

続いて「狐」の節へ.キツネは稲荷信仰の根幹となる動物で,宗教的に複雑な “霊性” を帯びている.しかし,著者はむしろ人間とキツネをめぐる生態学的関係に注目する.キツネ個体群の増減は他の動物たとえば被食者ウサギの増減と関係する.したがって,農業や牧畜の文脈からはキツネは害獣でもあり益獣でもあるとみなされてきた.

第I章の最後は「土竜」の節.モグラは農作物に直接の食害を及ぼす動物ではないが,田畑の畦道を掘り返して壊す害獣とみなされた.日本各地にはモグラ退治のさまざまな技術が開発されてきた.なかでも音響振動防除法(pp. 339-341)はとくに興味深い.

以上,第I章は計350ページもの長大な章だった.