『驚異の標本箱 -昆虫-』読売新聞書評

丸山宗利・吉田攻一郎・法師人響
(2020年10月16日刊行,KADOKAWA, 東京, 159 pp., 本体価格4,800円, ISBN:978-4-0404-109434-1 → 版元ページ

読売新聞ヴィジュアル評が公開された:三中信宏丸山宗利、吉田攻一郎、法師人響著「驚異の標本箱―昆虫―」 」(2020年11月29日掲載|2020年12月7日公開).



 “箱の魔術師”と呼ばれたジョゼフ・コーネルは小箱にさまざまなものを詰め、ミクロコスモス芸術を創造した。大判の本書もまた地球上に繁栄する昆虫という多様な生きものの芸術的形態を詰め込んだ“箱”だ。

 著者たちは「深度合成法」という最新の写真撮影技法を用い、これまでのカラー写真集とは桁違いの精度で昆虫の微細形態を美麗な画像として実現させた。自然物とはとても思えないプラチナコガネの金属光沢、色彩あふれるハンミョウ=写真=、珍奇な形態のツノゼミ、忌まわしい害虫であるはずのノミやゴキブリですらとてつもなく美しい。

 みごとに展翅展足された虫たちが一糸乱れず配列された標本箱はそれを見る者にある種の畏怖を覚えさせる。その蒐集慾と妄執の底知れなさにただ震えるしかない。分類学と写真術のコラボが生み出した稀有の作品群を見逃すのは人生の大きな損失だ。(KADOKAWA、4800円).

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2020年11月29日掲載|2020年12月7日公開)