『書籍修繕という仕事:刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる』前半1/3読了

ジェヨン[牧野美加訳]
(2022年12月25日刊行,原書房,東京, 48 color plates +232 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-562-07243-9目次版元ページ

先日すずらん通りの〈東京堂書店〉で袖をぐっと引かれた本.韓国ソウルで書籍修繕工房を営む著者が “本生” を語る.書籍修繕という仕事が「この1冊」というトークン(token)を相手にしていることを知る.前世紀末のことだったか,背が崩壊しかけた私物の分厚いペーパーバック本の修繕をある製本業者に依頼したことがある.最初に見積もりに来室されたとき,依頼予定本の山を見せ,可能ならすべてハードカバーとして再製本してほしいと頼んだ.業者は1冊ずつ本の状態をチェックしたのち,おもむろに「こちらの本はハードカバーにしない方がいいですよ」と何冊かを戻してきた.「このままにしておくことをおすすめします」と.その理由は聞きそびれたが,今にして思えば,この本は製本の際に解体したらきっと “祟り” があったにちがいない.トークンとしての本は “個物” としての歴史と体験を背負っている.書籍修繕とはそこに手を入れる作業であることを知る.崩壊しつつある依頼本をどのように “修繕” するかの道は一つではないと著者は言う.