『ないもの、あります』

クラフト・エヴィング商會

(2001年12月10日刊行,筑摩書房,東京,112 pp., ISBN:4480873325

最後を飾る〈大風呂敷〉の項には次のように書かれている(pp. 97〜98):

「最後にとっておきの逸品,すなわち,これひとつあれば,あらゆる「ないもの」を「あります」と言い続けられる究極の品を,御紹介することに致しました.



その名も〈大風呂敷〉.[…中略…]



このやたらに大きな風呂敷を,誰よりも威勢よくパァーっと広げてしまうこと,これこそが商売が「うまくいく秘訣・その1」なのであります.



とは言いましても,ただ広げてしまえばそれでいいというものではありません.広げた以上は,必ず「中身」を見せること.そして,お客様にじゅうぶん喜んでいただいたら,なるべくすみやかに,さっと風呂敷をたたむこと.これが「うまくいく秘訣・その2」であります.ここで注意しなければならないのが,この「たたむ」ということ.これが,どうにもなかなかうまくいかないものです.



なにしろ〈大風呂敷〉です.とてつもなく大きいわけです.[…中略…]



それを「あっ」という間にたたんで,胸のポケットか何かにしまい込まなければなりません.そこのところを粋にこなせなければ,結局は〈大風呂敷〉を広げたことにはならないのです.そう……「大馬鹿」を広げたことになってしまいます.



ですから,本品を購入されましたら,まず広げる前に「たたむ」練習を重ねること.これが肝要であります.広げてしまってからでは,もう遅いのです.ただ広げるだけなら誰でもできます.



まるで何ごともなかったかのように,さっとたたんで消え去ること.



それが何よりの「秘訣」であります」