『P値:その正しい理解と適用』

柳川堯
(2018年11月30日刊行,近代科学社[統計スポットライト・シリーズ 3],東京, x+117 pp., 本体価格2,200円, ISBN:9784764905832版元ページ

【目次】
まえがき iii

 

1. 基本的事項 1
2. P値とは? 11
3. P値の誤用 21
4. P値の算出 32
5. 統計的推論と統計的判定:真の検定を求めて 41
6. サンプルサイズの決定 50
7. P値と検出力 71
8. P値の統合:メタアナリシス 84
9. 検定の多重性調整P値 97

 

あとがき 111
参考文献 113
索引 115
著者紹介 117

『記憶術全史:ムネモシュネの饗宴』読売新聞書評

桑木野幸司
(2018年12月10日刊行,講談社講談社選書メチエ・689],東京, 348 pp., 本体価格2,000円, ISBN:9784065140260目次版元ページ

ワタクシの読売新聞書評(2019年1月6日付)が〈本よみうり堂〉でオンライン公開された:三中信宏試行錯誤の歴史を解明」(2019年1月14日).この書評記事は,ブックバンにも転載されている.

試行錯誤の歴史を解明

 

 本書は15~17世紀の初期近代において、限りなく増え続ける知識を効率的に覚えるための記憶術が熱烈に求められ、そして忘れ去られていった歴史を、詳細な事例とともに解き明かす。記憶術の根幹は「場所(ロクス)」と「イメージ」と「秩序」の3原理にあると著者は言う。実在あるいは仮想の「場所」を想定し、記憶すべき内容を「イメージ」に変換し、この両者の組み合わせに対して効率的な「秩序」を与えることで、複雑かつ大量のコンテンツを「記憶」するわけだ。

 

 本書がターゲットとした初期近代は、生物分類学の歴史の上では、探検博物学の興隆により、全世界から動植物の標本や知見が西洋に大量に流入し始めた時代とちょうど一致する。それまでは個々の生物の特徴をくわしく記載するだけが博物学者の仕事だったのに対して、初期近代になると、蒐集(しゅうしゅう)したコレクションをいかにうまく分類するかを統括する原理と方法が求められるようになった。この時代における記憶術の発展が、記載から分類への必然的な移行と歩みをともにしていたと考えれば、近代生物学へのひとつの歴史的な道筋がそこに見えてくる。

 

 現代の進化生物学では、無数の動植物のDNA塩基配列情報に基づいて巨大な分子系統樹を推定することが普通になってきた。系統樹というダイアグラムによって可視化された「イメージ」の末端点や分岐点は、それぞれの生物が占める「ロクス」であり、その全体は系統関係によって体系化された「秩序」を形成している。これはもう現代の「記憶術」と呼ぶしかない。

 

 膨大な数の個物や知識と格闘したのは中世人だけではない。現代人もまた氾濫するデータや情報に日々翻弄(ほんろう)されている。こう考えれば、中世から現代にまで千年にわたって生き続けてきた記憶術は今なお存在意義があるといえよう。本書はその全貌(ぜんぼう)を知るためのタイムリーなガイドブックだ。

 

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年1月6日付)

『Biological Individuality: Integrating Scientific, Philosophical, and Historical Perspectives』

Scott Lidgard and Lynn K. Nyhart (eds.)
(2017年5月刊行, The University of Chicago Press, Chicago, iv+361 pp., ISBN:9780226446455 [pbk] → 版元ページ

「生き物の個体性(biological individuality)」とは何かを生物学・生物学哲学・生物学史の観点から考察した論文集.個体性みたいな “存在論” に関わる概念的議論がこんがらがることは昔も今もぜんぜん変わっていないのかもしれない.もう20年も前に読んだ同一書名の本:Jack Wilson『Biological Individuality: The Identity and Persistence of Living Entities』(1999年刊行,Cambridge University Press[Series: Cambridge Studies in Philosophy and Biology], Cambridge, xii+137pp. ISBN:0521624258 [hbk] → 書評目次)では,さまざまな生き物の “ありかた” をまず知ることが個体性に関する哲学的な議論を進める上での前提だと指摘されていた.その問題意識は本論文集にも継承されているようだ.

【目次】
Introduction: Working Together on Individuality [Lynn K. Nyhart and Scott Lidgard] 1
l. The Work of Biological Individuality: Concepts and Contexts [Scott Lidgard and Lynn K. Nyhart] 17
2. Cells, Colonies, and Clones: Individuality in the Volvocine Algae [Matthew D. Herron] 63
3. Individuality and the Control of Life Cycles [Beckett Sterner] 84
4. Discovering the Ties That Bind: Cell-Cell Communication and the Development of Cell Sociology [Andrew S. Reynolds] 109
5. Alternation of Generations and Individuality, 1851 [Lynn K. Nyhart and Scott Lidgard] 129
6. Spencer’s Evolutionary Entanglement: From Liminal Individuals to Implicit Collectivities [Snait Gissis] 158
7. Biological Individuality and Enkapsis: From Martin Heidenhain’s Synthesiology to the Völkisch National Community [Olivier Rieppel] 184
8. Parasitology, Zoology, and Society in France, ca. 1880–1920 [Michael A. Osborne] 206
9. Metabolism, Autonomy, and Individuality [Hannah Landecker] 225
10. Bodily Parts in the Structure-Function Dialectic [Ingo Brigandt] 249

Commentaries: Historical, Biological, and Philosophical Perspectives 275

11. Distrust That Particular Intuition: Resilient Essentialisms and Empirical Challenges in the History of Biological Individuality [James Elwick] 277
12. Biological Individuality: A Relational Reading [Scott F. Gilbert] 297
13. Philosophical Dimensions of Individuality [Alan C. Love and Ingo Brigandt] 318

 

Acknowledgments 349
List of Contributors 351
Index 353

『昆虫考古学』

小畑弘己
(2018年12月21日刊行,KADOKAWA角川選書・610],東京, 234 pp., 本体価格1,700円, ISBN:9784047036451版元ページ

遺跡や遺物から発見される昆虫の痕跡を手がかりに考古学的な考察へと導く.

【目次】
はじめに 8

 

I章 コン虫とガイ虫 11
II章 縄文土器ごきぶりホイホイ 27
III章 ムシとヒトの歴史――シラミとゴキブリ 51
IV章 ウンチの中から出てくるムシたち 75
V章 ハエが見ていた人の死――葬送昆虫考古学の世界 103
VI章 殺虫・防虫の考古学 135
VII章 クリを食べたコクゾウムシ 175
終章 害虫と人の未来 201

 

おわりに 212
参考・引用文献 218

『まちづくりのエスノグラフィ:《つくば》を織り合わせる人類学的実践』

早川公
(2018年12月7日刊行,春風社,横浜, 310+iv pp., 本体価格3,700円, ISBN:9784861106262版元ページ

つくば北条での “まちづくり” の紆余曲折の実践記録.この新刊がワタクシの元にたどり着いたのは必然かもしれない.山出淳也『Beppu Project 2005 – 2018』(2018年10月13日刊行,NPO法人BEPPU PROJECT,別府, 345 pp., 本体価格1,500円, ISBN:9784990900502目次版元ページ)と響き合うところがあるので,できれば合わせて取り上げたい.

【目次】
はじめに 7
序章 再帰的近代、人類学的実践、「まちづくり」 17
第1章 「まちづくり」への人類学的アプローチに向けて 33
第2章 再帰的近代化としての「まちづくり」 59
第3章 筑波山麓地域の生活世界 99
第4章 「あの頃の北条」をめぐる空間づくり 121
第5章 地域資源を活用した特産品づくり 189
第6章 まちづくり実践の「発明品」 241
終章 人類学的まちづくり実践とは 273
おわりに 289
参考文献 292
参考資料 309
索引 [i-iv]

[付記]本書出版関連イベントが来月早々開催される:up Tsukuba「まちづくりから考える《つくば》のこれからと人文社会科学」(2019年1月10日)【日時】2019年2月5日(火)18:30–21:30【場所】up Tsukuba(つくばセンタービル内).

『BEPPU PROJECT 2005 – 2018』

山出淳也
(2018年10月13日刊行,NPO法人BEPPU PROJECT,別府, 345 pp., 本体価格1,500円, ISBN:9784990900502版元ページ

長年にわたって別府北浜を中心にレトロな温泉街でのモダンアート活動を長年続けてきた〈BEPPU PROJECT〉主宰者による回顧と展望.去年の師走に別府に行ったときは駅ナカの書店では見かけなかった本書を,年明けに大手町で手にしたのは何かの縁にちがいない.

【目次】
はじめに 4
1. アートと出会ってしまった! 6
2. アーティストとして 18
3. 別府との再会 39
4. BEPPU PROJECT誕生! 48
5. 初めての助成金申請 55
6. ムーブメントであること 61
7. アートNPO 68
8. 2人との出会い。町との関わり方 72
9. 創造都市って何だ? 88
10. platformの誕生 106
11. 『混浴温泉世界』の実現を目指し 115
12. 芸術祭の舞台裏 127
13. 続いていくということ 145
14. 2度目の芸術祭 155
15. もうダメかもしれない 167
16. もう1つの芸術祭『国東半島芸術祭』が始まる 172
17. 異人 —— 我々とは異なった考えをする者たち、移入 —— 181
18. 地霊 —— 場所に宿る精霊、場が持つ気配、潜在的な力 —— 183
19. LIFE —— 生命、生きて活動すること、人生、存在 —— 196
20. 同時にいろいろなことが動き始める 213
21. 最後の『混浴温泉世界』 232
22. 『混浴温泉世界』、そしてこの10年を振り返る 245
23. 新たな出発 260
24. クリエイティブなハブとして 279
25. 芸術祭を再デザインする 293
26. 何を目指しているのか 307
27. 町が変わり始めた 319
28. 2回目の国民文化祭 328
終わりに 340

『謎のカラスを追う:頭骨とDNAが語るカラス10万年史』読了

中村純夫
(2018年12月6日刊行,築地書館,東京, 12 color plates + 268 pp., 本体価格2,400円, ISBN:9784806715726目次版元ページ

著者はどこの大学や研究機関にも属さない “独立研究者” としてカラスの研究を長年続けてきた.本書の前半200ページは,サハリンから極東ロシアにかけて実施されたフィールドワークの詳細な記録である.最後の2章の計60ページでは,形態データと分子データの両面からハシブトガラスの系統関係と地理的分布が考察されている.ただし,あまり深く論じられていないので,詳細については本書だけではわからない部分が多い.本書のベースとなった著者の下記原著論文はすべてがインターネットからpdfとしてダウンロードできるので,関心のある読者はそれらを参照する必要があるだろう.

  • Alexey Kryukov, Liudmila Spiridonova, Sumio Nakamura, Elisabeth Haring, Hitoshi Suzuki 2012. Comparative Phylogeography of Two Crow Species: Jungle Crow Corvus macrorhynchos and Carrion Crow Corvus corone. Zoological Science, 29(8): 484-493. pdf
  • Sumio Nakamura and Alexey Kryukov 2015. Phenetic analysis of skull reveals difference between Hokkaido and Sakhalin populations of the Jungle Crow Corvus macrorhynchos. Русский орнитологический журнал 2015, Том, 24: 1845-1858. pdf
  • Sumio Nakamura and Alexey Kryukov 2016. Postglacial colonisation and diversification of the Jungle Crow (Corvus macrorhynchos) in its north-eastern frontier as revealed by morphological analysis. Journal of Ornithology, 157:4: 1087-1101. pdf
  • Sumio Nakamura 2016. Male-biased latitudinal cline of Jungle Crows on Sakhalin Island. Acta Zoologica Cracoviensia, 59(2): 177-189. pdf

『科学哲学の源流をたどる:研究伝統の百年史』書評

伊勢田哲治
(2018年11月20日刊行,ミネルヴァ書房[叢書〈知を究める〉・13],東京, x+316+36 pp., 本体価格3,000円, ISBN:9784623084319目次版元ページサポートサイト

【書評】※Copyright 2019 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

研究者コミュニティーとしての科学哲学

科学哲学がたどってきた道のりを振り返る本.序章「科学哲学の来た道」冒頭で,著者は本書全体の問題設定をする.

 

「「科学哲学」が「科学」と離れて独自の問題意識を育ててきたのは事実であり,その問題意識を科学者に説明するのにたいへんな苦労をすることもある.科学哲学はどうしてこういう分野になってきたのだろうか.本書では,十九世紀を中心に,科学哲学のやってきた道をたどることで,この問いに答える手がかりを得たいと思っている」(p. 1)

 

このように目標を設定した上で,著者は「研究伝統としての科学哲学」という視点を提示する.

 

「言葉の意味からいえば,「科学哲学」というのは,科学について哲学の観点から考える営み全般を指すだろう.これを「概念としての科学哲学」と呼ぶことにする.それに対して,実際に「科学哲学」という名前のもとに行われている研究は,もちろん「概念としての科学哲学」の範囲内に収まる研究が多いものの,その中でも特定の問題意識にそって,特定の課題を集中的にとりあげてきた.さらにいえば,そうした問題意識は,個々の科学哲学者が勝手にやっているというより,お互いに影響を与え合う哲学者たちのゆるやかな研究コミュニティで共有され,受け継がれてきたものである.このような形で受け継がれてきた問題意識や,その問題意識に基づく研究を「研究伝統としての科学哲学」と呼ぶことにしたい」(p. 2)

 

著者のいう「研究伝統としての科学哲学」が,研究者集団内外での継承や反発あるいは支持などさまざまな “動態” を示唆していると考えるならば,ワタクシ的にはとても首肯できる.個別の科学と同じく,科学哲学もまた時空的に限定された研究者コミュニティの中で共有されてきた基幹テーマを連綿と継承してきたと考えられるからだ.

 

本書の以降の章では,この「研究伝統」に着目しながら,科学哲学という研究分野の成立について19世紀から20世紀初頭までの歴史をたどる.第1章「帰納と仮説をめぐる論争」では,推論様式としての演繹と帰納をめぐる論議をさかのぼる.第2章「「サイエンティスト」の起源」は,科学者という呼称をめぐる歴史.第3章「一九世紀のクリティカルシンキング」は現代にも連なるクリティカルシンキングの黎明期を探る.

 

本書の後半章の第4章「実証主義の成立」では,実証主義すなわち「科学の対象は観察可能なものの法則的な関係に限定する」(p. 138)という思潮がどのような経緯で成立したのかについて,ルーツを求めて18〜19世紀にまでさかのぼる.続く,第5章「19世紀末から20世紀初頭の科学哲学」では,英独仏の広域圏に視野を広げて,物理学にかぎらず生物学や心理学,そして社会科学における哲学的問題が議論された.「科学と哲学との距離が今と比べて非常に近かったし,両者の境界にある問題が注目を集めていた」(p. 186)という時代背景が語られる.

 

最後の第6章「論理実証主義へと続く道」では,20世紀前半の論理実証主義からウィーン学団へとつながる道をたどる.そして,第4章で考察された「実証主義」が科学から哲学へとその舞台を変えていった経緯が語られる.

 

「なぜウィーン学団以降の科学哲学は哲学内部の運動になっていったのか,という問題を考えてみたい.……十九世紀においてはジョゼフ・フーリエ,グスタフ・キルヒホッフ,マッハら科学者たち自身が実証主義を積極的に主張し,実際の科学の営みの中でそれを実践していた.……それに対し.二十世紀の論理実証主義は哲学者による運動という側面が強い.……ここには実証主義という運動の変質があるように思われる.ある意味で「科学者たちが手を引いた」ことが今われわれが知る形での論理実証主義,ひいては科学哲学という専門分野が生まれる一つの原因となったとも言えるだろう」(pp. 261-262)

 

本書では個別科学の実例のほとんどは物理学から取られている.1920年代末のウィーン学団成立までは,確かに物理学を中心にして「科学と科学哲学との関わり」を論じることに異論はない.むしろ,それ以降のより現代的な科学哲学は個別科学との新たな関わり合いを模索していったと考えればつじつまが合うのかもしれない.

 

19世紀以前の科学哲学揺籃期に関する本書のくわしい解説はワタクシ的にはとても勉強になった.

 

三中信宏(2019年1月3日)

『ナチュラルヒストリー』読了

岩槻邦男
(2018年12月5日刊行,東京大学出版会ナチュラルヒストリーシリーズ],東京, vi+366 pp., 本体価格4,500円, ISBN:9784130602563目次版元ページ

読了.一冊丸ごとロングエッセイ.1950年代から現代にいたる日本のナチュラルヒストリーがたどった道を語るまた語る.随所にシダ分類の話題が散りばめられている.ただし,語られていないことがらも多々あるようなので,今のうちに誰かが “聴き取り” をしておいた方がいいように感じた.

『What Species Mean: A User's Guide to the Units of Biodiversity』

Julia D. Sigwart
(2018年10月刊行,CRC Press[Series: Species and Systematics], Boca Raton, xvi+241 pp., ISBN:9781498799379 [hbk] → 版元ページ

【目次】
Series Preface xi
Acknowledgements xiii
Author xv

 

Chapter 1. Introduction 1
Chapter 2. General Concepts 7
Chapter 3. Everyone Uses Species 11
Chapter 4. Why Do the Names Keep Changing? 31
Chapter 5. Species Are Units of Evolution 53
Chapter 6. Natural Patterns in Classification 75
Chapter 7. Are Species Real? 101
Chapter 8. How to Name a Species 123
Chapter 9. Biodiversity and Extinction through Time 147
Chapter 10. How Many Species Are There? 171
Chapter 11. Dynamic Patterns in Biodiversity 187
Chapter 12. Translating Biodiversity across Cultural Barriers 209

 

Species and Systematics 233
Index 235