『系統樹思考の世界:すべてはツリーとともに』反響(続54)

三中信宏
(2006年7月20日第1刷刊行|2006年8月4日第2刷刊行|2009年12月18日第3刷刊行|2010年5月10日第4刷刊行|2011年10月7日第5刷刊行|2013年6月28日電子本刊行|2015年4月14日第6刷刊行|2018年4月17日第7刷刊行|2021年8月31日第8刷刊行,講談社[現代新書1849],東京,296ページ, ISBN:978-4-06-149849-5版元ページコンパニオンサイト|「さらに知りたい人のための極私的文献リスト」を公開)

踏み跡

「「系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに」 三中信宏」(2023年1月29日) https://note.com/fumiato24/n/nbfcb432ba196

『大学の図書館:特集〈大学図書館研究会第53回全国大会記録〉』発行

昨年9月の高座:三中信宏「読書による知識の体系化 —— 分類・系統・アブダクション」.第53回大学図書館研究会全国大会記念講演(→ 講演要旨)の報告記事が,会報『大学の図書館』2022年12月号の特集〈大学図書館研究会第53回全国大会記録〉に掲載された:三中信宏 2022. 読書による知識の体系化 —— 分類・系統・アブダクション[下城陽介記],大学の図書館, 41(12):186-187.来年1月にはオープンアクセスになるとのこと.

『書籍修繕という仕事:刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる』書評(まとめて)

ジェヨン[牧野美加訳]
(2022年12月25日刊行,原書房,東京, 48 color plates +232 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-562-07243-9目次版元ページ

【書評】※Copyright 2023 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

書籍修繕は “本生” を進化させる

神田神保町すずらん通りの〈東京堂書店〉で袖をぐっと引かれた本.韓国ソウルで書籍修繕工房を営む著者が “本生” を語る.書籍修繕という仕事が「この1冊」というトークン(token)を相手にしていることを知る.

 

前世紀末のことだったか,背が崩壊しかけた私物の分厚いペーパーバック本の修繕をある製本業者に依頼したことがある.最初に見積もりに来室されたとき,依頼予定本の山を見せ,可能ならすべてハードカバーとして再製本してほしいと頼んだ.業者は1冊ずつ本の状態をチェックしたのち,おもむろに「こちらの本はハードカバーにしない方がいいですよ」と何冊かを戻してきた.「このままにしておくことをおすすめします」と.その理由は聞きそびれたが,今にして思えば,この本は製本の際に解体したらきっと “祟り” があったにちがいない.

 

トークンとしての本は “個物” としての歴史と体験を背負っている.書籍修繕とはそこに手を入れる作業であることを知る.崩壊しつつある依頼本をどのように “修繕” するかの道は一つではないと著者は言う.

 

11「朽ちゆく本の時間を止める」にはこう書かれている:

「本自体に大きな破損はなくても,すでに紙がかなり古くなっているとか,希少書籍ゆえ原本にあまり手を加えられないような場合は普通,本そのものに積極的な修繕を施す代わりに,原形をできるだけ維持しつつ(たとえそれが傷んだ姿であっても),今後の安全な保管に重点を置くことになる.その際,袋やケース,箱などが選択肢となる.これは技術的には『修繕』とは言いがたい.けれど『保存』の領域から見ると,本の時間を安全に延長するという意味で,やはり書籍修繕家の役割の一つだと言える」(p. 120)

本の時間を安全に延長する」という著者の考えは,トークンとしてのそれぞれの本がもつ人生ならぬ「本生」(p. 116)を尊重するという主義に裏打ちされている.崩壊しつつある本に積極的に介入して “修繕” するだけが進むべき道ではないということだ.

 

ワタクシの手元にも堅牢な本から “紙束” へと移行しつつある半崩壊本が何冊かある.それらは半世紀から一世紀も前の古書だったり著者自筆コメントが入った別刷りだったりする.本棚の中でページが散逸するのは忍びないので,適切なサイズのクリアファイルに入れて収納しているが,そのうち何とかしないと行けないなあと思いつつ幾年月.

 

14「破損という勲章」では,マンチェスター・ユナイテッドに関する超巨大本(60cm×60cm×14cm, 37kg)を修繕するという大仕事が登場する.ワタクシがもっている19世紀の鳥類モノグラフ(Max Fürbringer 1888)も2巻合計で「38cm×28cm×18cm, 16kg」という巨大本だ.ベルリンの古書店で買った時点ですでに “紙束” 状態だった.造本が崩壊しているのをいいことに,巻末の石版画の図版だけ方々の高座に持ち歩いて見せて回ったが,もし修繕してもらったならば二度と自由に “外出” させられないだろう.それはこの本の “本生” にとってシアワセなのかフシアワセなのか.

 

ゆるゆる読み進み,気がつけば最後まで読み終えていた.さまざまな道のりをたどり,縁あって著者のもとにたどり着いた依頼本たち.依頼者の希望に沿いつつも書籍修繕家としての試みを反映して “再生” された実例の数々を本文とカラー写真でたどるのは心が温まる.

 

著者は「伴侶動物」ならぬ「伴侶本」なることばを使う:

「さまざまな理由で修繕までしてもらいながら持ち主のそばでずっと大切にしてもらえる本もある.そういう本は『伴侶本』と呼ぶことも可能ではないだろうか?」(p. 154)

これらの伴侶本は,たとえ古びて傷ついたとしても,修繕という人為によって “進化” を遂げることができる:

「わたしは,書籍修繕は本が進化する方法の一つだと考える.原本とまったく同じ姿にはならないかもしれないけれど,原本とは異なる構造になるかもしれないけれど,破損した部分をより良い状態にすることでこの先も生き残っていけるように,未来を期待できるようにしてあげること.そういう意味でわたしは,本は修繕によって進化できると信じる」(p. 190)

かくして,書籍修繕によって新たに進化した “本生” を享けた本たちは人生の伴侶としてこれからも歩んでいく.

 

ワタクシの書棚に長く安置されている Walter Zimmermann の系統学本:『Arbeitsweise der botanischen Phylogenetik und anderer Gruppierungswissenschaften』(1931年刊行,Urban & Schwarzenberg[Handbuch der biologischen Arbeitsmethoden, Abteilung 9: Methoden zur Erforschung der Leistungen des tierischen Organismus, Teil 3, Heft 6, pp. 941-1053], Berlin)は,系統学の理論史をたどる上で不可欠の貴重な文献だが,日本の公的機関では京都大学医学図書館にしか所蔵されていない(→ CiNii Books).一世紀近く前の冊子なので,すでに造本はほぼ完全に崩壊し,紙質の経年劣化も著しい.しかし,こういう “紙束” 状態の本であっても適切に修繕すれば新たな “本生” を拓くことができるのだろうか.やや明るい未来が見えてきた気がする.

 

三中信宏(2023年1月28日公開)

『反復幻想:進化と発生とゲノムの階層性』が積み重なる

倉谷滋
(2022年12月20日刊行,工作舎,東京, 701 pp., 本体価格8,000円, ISBN:978-4-87502-551-1目次版元ページ

本を買えば同じ本がやってくる.版元からご恵贈いただきました.正座して2回読まないと(汗).あるいは,ヨコに2冊並べて “立体視” すれば3Dの幻想が体験できるのだろうか.

『書籍修繕という仕事:刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる』2/3まで読了

ジェヨン[牧野美加訳]
(2022年12月25日刊行,原書房,東京, 48 color plates +232 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-562-07243-9目次版元ページ

順調に読み進んでいる.11「朽ちゆく本の時間を止める」にはこう書かれている:

「本自体に大きな破損はなくても,すでに紙がかなり古くなっているとか,希少書籍ゆえ原本にあまり手を加えられないような場合は普通,本そのものに積極的な修繕を施す代わりに,原形をできるだけ維持しつつ(たとえそれが傷んだ姿であっても),今後の安全な保管に重点を置くことになる.その際,袋やケース,箱などが選択肢となる.これは技術的には『修繕』とは言いがたい.けれど『保存』の領域から見ると,本の時間を安全に延長するという意味で,やはり書籍修繕家の役割の一つだと言える」(p. 120)

本の時間を安全に延長する」という著者の考えは,トークンとしてのそれぞれの本がもつ人生ならぬ「本生」(p. 116)を尊重するという主義に裏打ちされている.崩壊しつつある本に積極的に介入して “修繕” するだけが進むべき道ではないということだ.

ワタクシの手元にも堅牢な本から “紙束” へと移行しつつある半崩壊本が何冊かある.それらは半世紀から一世紀も前の古書だったり著者自筆コメントが入った別刷りだったりする.本棚の中でページが散逸するのは忍びないので,適切なサイズのクリアファイルに入れて収納しているが,そのうち何とかしないと行けないなあと思いつつ幾年月.

そのあとの14「破損という勲章」では,マンチェスター・ユナイテッドに関する超巨大本(60cm×60cm×14cm, 37kg)を修繕するという大仕事が登場する.ワタクシがもっている19世紀の鳥類モノグラフ(Max Fürbringer 1888)も2巻合計で「38cm×28cm×18cm, 16kg」という巨大本だ.ベルリンの古書店で買った時点ですでに “紙束” 状態だった.造本が崩壊しているのをいいことに,巻末の石版画の図版だけ方々の高座に持ち歩いて見せて回ったが,もし修繕してもらったならば二度と自由に “外出” させられないだろう.それはこの本の “本生” にとってシアワセなのかフシアワセなのか.

『反復幻想:進化と発生とゲノムの階層性』命名エピソード

倉谷滋
(2022年12月20日刊行,工作舎,東京, 701 pp., 本体価格8,000円, ISBN:978-4-87502-551-1目次版元ページ

昨年末からずっと待ち構えていたのだが,年を越してしまったので,東京堂書店まで先日お迎えに行った.700ページの大著なので寝読みも歩き読みもできまへん.

本書は,6年前に出た:倉谷滋『分節幻想:動物のボディプランの起源をめぐる科学思想史』(2016年11月20日刊行,工作舎,東京, 862 pp., 本体価格9,000円, ISBN:978-4-87502-478-1目次版元ページ)に続く『幻想』シリーズ?の第二弾!

『反復幻想』の「後記」には:「本書のタイトル『反復幻想』を最初に提案したのが三中信宏氏であったこともここに述べ,感謝を表しておきたい」(p. 700)と記されている.新刊の “名づけ親” として,ワタクシの著者宛ての Facebook メッセージを日録で公開してもきっと非難されないだろう.

これから正座してご高著を読ませていただきますです.

『反復幻想:進化と発生とゲノムの階層性』詳細目次

倉谷滋
(2022年12月20日刊行,工作舎,東京, 701 pp., 本体価格8,000円, ISBN:978-4-87502-551-1版元ページ


【目次】
はじめに 4

第1章 発生反復説 25

第2章 反復とは何か 67

フォン=ベーアと原型説 85
ボディプランと胚葉説 124

第3章 『一般形態学』とヘッケルの発生反復説 139

ハクスレーからミュラーへ 142
形態学的な系統樹 187
ヘッケルの胚葉 213

第4章 生物発生原則のその後 285

反復の実例はあるのか 314
揃い並ぶ胚たち 340

第5章 保守的な発生のメカニズム 377

ファイロタイプとガストレア問題 407

第6章 発生が進化を繰り返す理由 419

エピジェネティクスから反復を見る435

第7章 反復説に反する考え方 447

ヘッケルの変形発生 450
ド=ビアのヘテロクロニー論 471
ゼヴェルツォッフの学説 500
ヘテロクロニーとヘテロトピーの組み合わせ? 512

第8章 ボディプランの進化 527

発生負荷と反復 —— 再考 545

第9章 越境する反復と諸問題 563

化石と死体の反復 565
レイヤーと反復 581
付記 599

第10章 結論とまとめ 617

結語 618
まとめ 629

 

引用文献 [662-636]
索引 [692-663]
後記 694

『反復幻想:進化と発生とゲノムの階層性』目次

倉谷滋
(2022年12月20日刊行,工作舎,東京, 701 pp., 本体価格8,000円, ISBN:978-4-87502-551-1版元ページ


【目次】
はじめに 4
第1章 発生反復説 25
第2章 反復とは何か 67
第3章 『一般形態学』とヘッケルの発生反復説 139
第4章 生物発生原則のその後 285
第5章 保守的な発生のメカニズム 377
第6章 発生が進化を繰り返す理由 419
第7章 反復説に反する考え方 447
第8章 ボディプランの進化 527
第9章 越境する反復と諸問題 563
第10章 結論とまとめ 617
引用文献 [662-636]
索引 [692-663]
後記 694