「湯の町暮らし」リレーエッセイ公開

三中信宏「閏【relay essay 連閏記・26】湯の町暮らし」
https://www.uruu-magazine.com/relay-essay26 (2024年12月4日公開)

〈閏〉というサイトにリレーエッセイを公開した。はい、道後温泉別府温泉の話でございます。勤務先大学の新設学部の宣伝もやれという “天の声” が聞こえる気がするが、それは幻聴にちがいない。あくまでも温泉生活の愉しみを綴ったエッセイということで大目に見てください。

『午後三時にビールを——酒場作品集』読了

中央公論新社(編)
(2023年6月30日刊行、中央公論新社[中公文庫・ち-8-19]、東京, 257 pp., 本体価格840円, ISBN:978-4-12-207380-7目次版元ページ

読了。酒場の記憶は何年経っても揮発しない。本書に登場する古今の作家たちの酒場エピソードの数々がおもしろくもなつかしい。彼/彼女らの「呑み方」はそろいもそろって “野獣的” かつ “破滅的” 。今ではこんな荒っぽい呑み方(エンドレスなはしご酒とか)をするのんべ世代は野生絶滅しているだろうなあ(どの口がそれを言う)。

なお、この文庫本のカバージャケットの図版は有名な〈銀座ライオン〉を描いた山高登の「『ビアホール』雑感」という作品(p. 253 に解説あり)。銀座ならワタクシは今はなき〈ピルゼン〉が好きだった。そのビアホールで「ビール純粋令」に則った正しいビールを呑みながら太いヴルストをナイフで切っていたら、隣席の見知らぬドイツ人から「そのヴルストは切らずに丸かじりするもんだ」というかなり強い “教育的指導” を受けた記憶がある。

そして、いまワタクシが住んでいる道後温泉街では、朝ワインだろうが、昼ビールだろうが、夜酒だろうが何でもありだ。もうおそれるものは何もない。

—— 版元はすべての本の目次を公開してほしい。本書のようなアンソロジーで目次がなければ、何の手がかりもないし、買う意欲も湧かないでしょう。

『午後三時にビールを——酒場作品集』目次

中央公論新社(編)
(2023年6月30日刊行、中央公論新社[中公文庫・ち-8-19]、東京, 257 pp., 本体価格840円, ISBN:978-4-12-207380-7版元ページ

版元はすべての本の目次を自社サイトで公開してほしい。本書のようなアンソロジーで目次がなければ、何の手がかりもないし、買う意欲も湧かないでしょう。


【目次】
虚無の歌(萩原朔太郎) 9

酒友のいる風景

はせ川(井伏鱒二) 14
中原中也の酒(大岡昇平) 20
青春時代(森敦) 24
酒の追憶(太宰治) 35
酒のあとさき(坂口安吾) 52
池袋の店(山之口獏) 60
音問(檀一雄) 64
詩人のいた店(久世光彦) 70
後家横町/酒のこと(小沼丹) 79

行きつけの店

タンタルス(内田百閒) 88
藪二店(池波正太郎) 108
私と浅草/札幌の夜(吉村昭) 119
鯨の舌(開高健) 128
「ままや」繁昌記(向田邦子) 139
ほろ酔いの背に響く潮騒安西水丸) 153
新宿飲んだくれ/焼酎育ち(田中小実昌) 157

文士の集う場所

「ぼるが」に集う人人(石川桂郎) 172
昼間の酒宴/ある酒場の終焉(寺田博) 182
深夜の酒場で(中上健次) 192
バーの扉を開けるとき(島田雅彦) 194
てんかいそうろう(戌井昭人) 198

酒場に流れる時間

海坊主(吉田健一) 204
幻想酒場〈ルパン・ペルデュ〉(野坂昭如) 214
花の雪散る里(倉橋由美子) 238
ゆうすず(松浦寿輝) 245

 

ビヤホール雑感(山髙登) 253

『花街——遊興空間の近代』読了

加藤政洋
(2024年10月8日刊行、講談社講談社学術文庫・2839)、東京, 221 pp., 本体価格1,020円, ISBN:978-4-06-537358-3目次版元ページ

こういうジャンルの本に袖を引かれる機会が目立って増えてきた。遊廓を含む「花街」がどのような経緯で造られてきたかを日本各地の事例を通して考察する。花街はけっして民間のみの駆動でつくられたのではなく、時代ごとの都市政策(まちづくり)を推し進める政治的・経済的なバックグラウンドがあって初めて出現した明治以降の所産であると著者は言う。各地の花街が「新地」とか「新開地」と称される地域にあることが多かったという著者の指摘に首肯する。拙著『読む・打つ・書く』の「本噺前口上」冒頭で言及した伏見の中書島遊廓も例外ではなく、ワタクシが記憶しているかぎりでは、遊廓のあったエリアは “新開地” と呼ばれていた。

本書の巻末には「花街専門用語」リストがまとめられていてとても便利。なお、道後温泉〈松ヶ枝遊廓〉の古い絵葉書が載っているが(p. 44, 図5左下)、正面門の右手角に写っている建物は今でもそのまま上人坂(旧 “ネオン坂” )の入口に残っている(参照:2024年12月4日(水)日録)。

『在野と独学の近代 —— ダーウィン、マルクスから南方熊楠、牧野富太郎まで』読了

志村真幸
(2024年9月25日刊行、中央公論新社中公新書・2821]、東京, viii+267 pp., 本体価格960円, ISBN:978-4-12-102821-1目次版元ページ

「在野」で「独学」したアマチュアたちの列伝。内容の濃い読みでのある新書だった。終章「アマチュア学者たちの行方」に総括されている重要な論点は、在野アマチュアうしの知的コミュニティをどのように組織立てるかだ。西洋的な “ヨコ” の広がりと日本的な “タテ” の階層という対比しつつ考察される今後の方向づけは、現代の「シティズン・サイエンス」の行方とも関わる。良書。

『花街——遊興空間の近代』目次

加藤政洋
(2024年10月8日刊行、講談社講談社学術文庫・2839)、東京, 221 pp., 本体価格1,020円, ISBN:978-4-06-537358-3版元ページ


【目次】
はじめに 3

第1章 花街の立地と形態 15

1 遊廓と花街 15
2 地図のなかの花街 22
3 花街の空間的類型 32

第2章 城下町都市の空隙、市街地化のフロンティア 46

1 和歌山城丸の内の再開発 47
2 鳥取藩主の庭園《衆楽園》 52
3 富山藩主の別邸《千歳御殿》 58
4 「にごりえ」のあとさき 66
5 鹿児島の墓地再開発 69
6 神戸市近郊の《西新開地》 77
7 再び「新開町」をめぐって 96

第3章 近代東京における地区指定の転回 99

1 江戸‐東京の「慣例地」 99
2 《白山》の指定と開発のはじまり 112
3 大正期の地区指定 118
4 昭和初年の「置土産」 127
5 ウォーターフロントの花街 134

第4章 近代大阪における新地開発 150

1 岸本水府の花街案内 150
2 江戸から明治へ 153
3 新遊廓《飛田》の誕生 157
4 《今里新地》の開発 171
5 新地の開発史 177

第5章 謎の赤線を追ってーー鹿児島近郊の近代史 181

1 消えた遊廓とひとつの謎 181
2 都市近郊の近代 185
3 近郊の名所とメディア・イベント 191

 

おわりに 207

 

文献一覧 210
図表出典一覧 [217-216]
花街関連用語集 [221-218]