『雪夢往来』読了

木内昇
(2024年12月15日刊行、新潮社、東京, 397 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-10-350957-8版元ページ

江戸時代、越後の鈴木牧之(1770–1842)が『北越雪譜』を刊行するまでの長すぎた道のりを描いた長編伝記小説。ワタクシが『北越雪譜』を岩波文庫で読んだのは高校生の時だったか。平凡社東洋文庫から出た『秋山紀行・夜職草』も書庫のどこかに眠っているはず。Cf. 青空文庫:鈴木牧之『北越雪譜https://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1930.html

『ジェリコの製本職人』読了

ピップ・ウィリアムズ[最所篤子訳]
(2024年12月2日刊行、小学館、東京, 554 pp., 本体価格3,200円, ISBN:978-4-09-356747-3目次版元ページ

この小説は、1910年代第一次世界大戦下のオックスフォードを舞台として、登場人物が一作目と部分的に重なっている。両作品とも小説の舞台は同じオックスフォードであっても、異なる視点(あるいは平面)から切り取っている。19世紀から20世紀へと移行する前時代を背景とする前作:ピップ・ウィリアムズ[最所篤子訳]『小さなことばたちの辞書』(2022年10月2日刊行、小学館、東京, 526 pp., 本体価格3,000円, ISBN:978-4-09-356735-0目次版元ページ)に比べて、本作では戦時下で女性の権利(選挙権・教育権など)を手にする戦いに軸足が置かれている。主人公であるクラレンドン出版局の製本女工マーガレット・ジョーンズは、女工として “タウン” で働きながらも、いつかは大学で “ガウン” をまとうことを目指す。

前作はOED編纂という誰にでもわかりやすい大事業が小説の柱だったのに対して、本書『ジェリコの製本職人』は大学出版が中心テーマであるのが特徴だ。ワタクシ的には、かねてからわからなかったオックスフォード大学出版局の名称についての疑問が解けたことは朗報だ。私の手元にある D'Arcy Wentworth Thompson 訳のアリストテレス動物誌(Historia Animalium)』(1910年刊行)には、オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)という名称はどこにも見当たらず、その代わりに「Oxford at the Clarendon Press」と書かれている。この「at」はどういう意味だろうと前から疑問だった(このネーミングは1970年代まで使われ続ける)。『動物誌』の最終ページを見ると、「Oxford: Printed at the Clarendon Press by Horace Hart, M.A.」と記されている。そういう意味だったか。ホレス・ハートはここに確かにいる。クラレンドン・ビルディングがあの時代のオックスフォード大学出版局の本体であることは『ジェリコの製本職人』にくわしく描かれている(巻頭のオックスフォードの地図が参考になる)。同書巻末にクラレンドン出版局を取り仕切ったホレス・ハート(Horace Hart)の1915年退職記念寄せ書きの写真が載っているのもむべなるかな。ほんとうの主役はこの出版局だったのかもしれない。Cf: Oxford University Press Archive — What is the Clarendon Press?

『小さなことばたちの辞書』読了

ピップ・ウィリアムズ[最所篤子訳]
(2022年10月2日刊行、小学館、東京, 526 pp., 本体価格3,000円, ISBN:978-4-09-356735-0目次版元ページ

この小説は、『オックスフォード英語大辞典(OED)』の辞書製作を中心にして、オックスフォードの「写字室(スクリプトリウム)」に集まった編纂チームと印刷・造本を担ったクラレンドン出版局(Oxford at the Clarendon Press)での人間模様を描いた小説だ。しかし、小説とはいえ、架空の人間と実在する人間が混ざり合い、19世紀末から第一次世界大戦にかけてのオックスフォード大学出版局(Oxford University Press)の歴史を踏まえたストーリー展開はとても読み応えがある。ふだんは小説を読む習慣がほとんどないワタクシが最後まで読み通したのだから嘘偽りはない。主人公エズメ・ニコルは、OED編集主幹のジェームズ・マレーら男中心の編纂体制ではふるい落とされてしまう “女ことば” を集めた辞典をつくろうとする。

エズメがつくった辞書と彼女が関わった人々は、次作である:ピップ・ウィリアムズ[最所篤子訳]『ジェリコの製本職人』(2024年12月2日刊行、小学館、東京, 554 pp., 本体価格3,200円, ISBN:978-4-09-356747-3目次版元ページ)にも登場する。女どうしのつながり( “シスターフッド” )を共通のキーワードとするこの連作小説は2冊合わせて千ページを超える。

ピップ・ウィリアムズ[最所篤子訳]
(2022年10月2日刊行、小学館、東京, 526 pp., 本体価格3,000円, ISBN:978-4-09-356735-0目次版元ページ

この小説は、『オックスフォード英語大辞典(OED)』の辞書製作を中心にして、オックスフォードの「写字室(スクリプトリウム)」に集まった編纂チームと印刷・造本を担ったクラレンドン出版局(Oxford at the Clarendon Press)での人間模様を描いた小説だ。しかし、小説とはいえ、架空の人間と実在する人間が混ざり合い、19世紀末から第一次世界大戦にかけてのオックスフォード大学出版局(Oxford University Press)の歴史を踏まえたストーリー展開はとても読み応えがある。ふだんは小説を読む習慣がほとんどないワタクシが最後まで読み通したのだから嘘偽りはない。主人公エズメ・ニコルは、OED編集主幹のジェームズ・マレーら男中心の編纂体制ではふるい落とされてしまう “女ことば” を集めた辞典をつくろうとする。

エズメがつくった辞書と彼女が関わった人々は、次作である:ピップ・ウィリアムズ[最所篤子訳]『ジェリコの製本職人』(2024年12月2日刊行、小学館、東京, 554 pp., 本体価格3,200円, ISBN:978-4-09-356747-3目次版元ページ)にも登場する。女どうしのつながり( “シスターフッド” )を共通のキーワードとするこの連作小説は2冊合わせて千ページを超える。

『図書館を建てる、図書館で暮らす——本のための家づくり』目次

橋本麻里・山本貴光
(2024年12月20日刊行、新潮社、東京, 240 pp., 本体価格3,300円, ISBN:978-4-10-355991-7版元ページ

今日も暖かな一日だった。こんないい日和に自宅に引きこもっているのは罪深いことなので、ひさしぶりにつくばセンターのリブロをぶらぶら徘徊していたら、背後の新刊棚からただならぬ “圧” が押し寄せてきた。こういうときにはけっして振り返ってはいけないのだが……。というわけで、このカバージャケットは憑くなあ。十年前に手にした:松原隆一郎堀部安嗣書庫を建てる —— 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト』(2014年2月25日刊行,新潮社,東京,222 pp., 本体価格1,900円,ISBN:978-4-10-335291-4版元ページ)もまた図書館を建てる本だったことを思い出した。


【目次】
まえがき 橋本麻里 14

〈森の図書館〉が建ち上がるまで 17

プロローグ 〈森の図書館〉へようこそ 橋本麻里 18
引っ越し魔の住居放浪記 橋本麻里 25
本と暮らす日々――魔窟のできるまで 山本貴光 34
〈森の図書館〉を設計することになった 三井嶺 42
複雑にカーブする屋根との闘い 三井嶺 51
森へ「帰還」した書架 橋本麻里 60
雨に泣き、本棚と格闘し、とうとう竣工 三井嶺 72

本のある空間で起こっていること 81

本を迎える 山本貴光 82
書棚をつくる 山本貴光 99
「本のある空間」の歴史 山本貴光 147
理想の図書館 山本貴光 164

本にまつわる仕事 177

旅人のための図書館をつくる 橋本麻里+山本貴光 178
書物の展示が可視化するもの――「世界を変えた書物」展 橋本麻里 188
書物の中に入り込む展覧会 北斎づくし 橋本麻里 202
自然という書物――博物図譜をあつめる、楽しむ。 橋本麻里 210

 

あとがきにかえて 〈森の図書館〉で暮らす 橋本麻里+山本貴光 215

 

参考文献・註 228