『鳥を探しに』

平出隆

(2010年1月24日刊行,双葉社,東京,本体価格3,800円,ISBN:9784575236859版元ページ

本文660ページ! 束の厚さにして5センチもある.木下杢太郎『百花譜』みたいな絵がカバージャケットはもちろん,表裏の見開きに.主役は対馬の絶滅鳥キタタキか.ぼくはたまたま書店で袖を引かれただけだったが,本書の刊行を首を長くしていた読者もいるようだ.キタタキのいた対馬とベルリンのTiergartenが妙に呼応したりして.それにしても,この造本と装丁はたいしたものだ.まだ手に取っていない人はシアワセをみすみす見逃すようなもの.ノンフィクションにしてフィクションな内容で,残された「絵」が物語るというのも共通するところ.



主人公は「左手」家の三代「種作→森一→私」にわたる系譜.対馬に住み,Naturforscher にして画家しかもエスペランティストというとらえどころのない左手種作の生涯を復元していく旅.その旅路は,ペルリンに留学している「私」とその父親「森一」との関わり,絶滅が懸念されているキタタキやツシマヤマネコのフィールド観察をはじめ,さまざまな生物学の経験を積んできた祖父・種作の話,さらに種作が翻訳したアラスカ探検記や北極圏のナチュラルヒストリーの著作内容が「平行世界」のように描き出されていく.



詩的な印象を受ける本だが,内容的にはかなり突っ込んだ自然誌の話が出てくる(北極海海獣のこととか).生物好きならば意外と本書に惹かれるかもしれない.フランシス・ゴルトンの「超音波鳥笛」の話題が取り上げられていた.ちょっと調べてみよう.