『生きるための読み書き:発展途上国のリテラシー問題』

中村雄祐

(2009年9月25日刊行,みすず書房,東京,x+252 pp.,本体価格4,200円,ISBN:9784622074588目次版元ページ

新刊をご恵贈いただきました.感謝.ここ数年,ぼくが「系統樹リテラシー」ということばを使うとき,図形言語としての「系統樹」の読み書き能力を念頭に置いている.一般的に理解されている「文字」だけでなく,「数字」や「図形」まで広く包括する議論の場で「リテラシー」を考えるべきだという基本姿勢は,本書の著者から直接的に教わったことである.本書の第1部「読み書きと社会の発展」はそれを中核として議論が展開されている.

続く第2部「文書と人間の歴史」では,そのような人間社会におけるリテラシーのもつ認知科学的側面に切り込んでいる.認知的人工物(cognitive artifacts)という概念は要注目.文字のリテラシーの程度は比較的明確に判定できるかもしれない.それに比べると,図形や数字のリテラシーが身に付いているかどうかは,あまり関心が持たれていないだけに,その習得が軽視されていることが危惧される.たとえば,本書でも引用されているが,「樹(tree)」のリテラシーは時代背景によって大きく変化する.それを進化系統樹とみなすことは場合によっては危険であるということだ.

最後の第3部「途上国の読み書き問題」では,著者が関わった南米ボリビアでの事例が紹介されている.

—— 本書は,そのタイトルからは「発展途上国の〜」とか「南米の〜」という地域限定本として受け取られるかもしれないが,実際にははるかに範囲の広い一般的テーマを論じている.ライブラリアンやアーカイヴィストはもちろん,タイポグラフィーに関心のある読者,そして認知科学の好きなアナタもまずは手に取るべし!