『博物学の時間:大自然に学ぶサイエンス』

青木淳

(2013年9月5日刊行,東京大学出版会,東京,x+197+4 pp., 本体価格2,800円,ISBN:9784130633383目次版元ページ

8-2節「標本と文献は国家の財産」には,「一人の研究者が関与する分野の論文を集めるだけでも膨大な時間と費用を要する」(p. 185)と書かれている.著者はこれらのまとまった文献セットは「公的な財産として広く利用されるよう,大学や博物館で保管される方が望ましい」(p. 185)と言う.

しかし,現状では,研究者の個人蔵書を引き取ってくれる公的機関(大学・博物館・研究機関)はほとんどないと聞く.多くの場合,処分された蔵書は散逸してしまう.運がよければ古書店業界に流通するが,場合によっては廃棄されてしまう.たとえ,運よく公的機関に個人蔵書が引き取られることになっても,部外者はもちろんなかのひとにさえ利用しづらい “死蔵状態” になったのでは蔵書の意味がなくなってしまう(図書資産ではあっても).

研究機関での公費購入雑誌が取りやめになって,研究室単位あるいは個人単位での「ライブラリーづくり」に依存する問題点は,その研究室が組織改編などでなくなったとき,あるいは研究者個人が異動や退職でいなくなったとき,遺されたライブラリーが散逸してしまうリスクが高いこと.