ジャン=マルク・ドルーアン[辻由美訳]
(2016年5月20日刊行,みすず書房,東京, 212+xxxi pp., 本体価格3,600円, ISBN:9784622079880 → 目次|版元ページ)
原書:Jean-Marc Drouin 2014. Philosophie de l'insecte. Seuil, Paris, ISBN:9782021118896 → 版元ページ.著者はパリの国立自然史博物館に所属していた科学史家.フランス博物学の長い伝統に裏打ちされた歴史的逸話の数々がそこかしこに.自然史博物館にこういう科学史の専門家のポストがあるのはうらやましいかぎりだ.昆虫の分類・進化・形態・生態・行動をめぐって過去と現代を行き来しつつ,幅広く話題を渉猟していて読者を飽きさせない.ワタクシの蒐書アンテナにヒットしないフランス語の文献や資料が巻末リストとしてまとめられているのはたいへんありがたい.
個別の点をいくつか:
- 文献リストの改行がなされていない箇所が散見された.
- 日本語訳の存在が抜けている項目がある(Toby Appel 1987本とか).
- アリの大家のお名前は Holldobler でも Hülldobler ではなく正しくは Hölldobler ね.
- 分岐学をめぐる Claude Lévi-Strauss のコメント「真の系統分類のカギをにぎっているのは,結局のところ分子生物学ではないか」(p. 49)が引用されていて興味深い.元ソース:Claude Lévi-Strauss 2002. Guillaume Lecointe & Hervé Le Guyader, Classification phylogénétique du vivant. L'Homme, 162 avril-juin 2002, pp. 309-312 → html.
- ワタクシ的には,これまでたどりきれなかった下記連作文献の書誌情報がやっとすべて解明されて,とてもシアワセになれた:
- Claude Dupuis 1978. Permanence et actualité de la systématique: La «systématique phylogénétique de W. Hennig» (historique, discussion, choix de références). Cahiers de Naturalistes (Bulletin des Naturalistes Parisiens), N. S., 34(1): 1-69.
- Claude Dupuis 1988. Permanence et actualité de la systématique II: La taxinomiste face aux catégories. Cahiers de Naturalistes (Bulletin des Naturalistes Parisiens), N. S., 44(3-4): 49-109.
- Claude Dupuis 1992. Permanence et actualité de la systématique III: Regards épistémologiques sur la taxinomie cladiste. Adresse à la Xle session de la Willi Hennig Society (Paris, 1992). Cahiers de Naturalistes (Bulletin des Naturalistes Parisiens), N. S., 48(2): 29-53.
昆虫のエッセイ本といえば,60年前の Lucy W. Clausen『Insect and Folklore』(1954年刊行,Macmillan, London)の翻訳が同じみすず書房から出ていた:ルーシー・W・クラウセン[小西正泰・小西正捷訳]『昆虫と人間(1, 2)』(1972年刊行|1993年に博品社から『昆虫のフォークロア』という書名で復刊された).ただし,このクラウセン本はかなり民俗学寄りのそして実利的な内容だったと記憶している.日本語だと昆虫エッセイ集は山のように出版されている.