『路上のポルトレ —— 憶いだす人びと』感想

森まゆみ
(2020年11月20日刊行,羽鳥書店,東京, 328 + iv pp., 本体価格2,200円, ISBN:978-4-904702-83-3版元ページ

ここのところの寝み本.ワタクシ自身が本書の舞台である “谷根千エリア” に長年住んでいたので,ここに書かれている場所や店や人物には思い当たることが少なくない.ここ一年ほどは都内に行く機会がなくなったせいで,あのあたりをぶらぶら歩きをする機会がほとんどなくなってしまった.

第I部「こぼれ落ちる記憶」読了.ワタクシ自身が本書の舞台である “谷根千エリア” に長年住んでいたので,ここに書かれている場所や店や人物には思い当たる箇所が少なくない.続いて,「II 町で出会った人」「III 陰になり ひなたになり」「IV 出会うことの幸福」と寝読みし続けて,最後まで読了.

ポルトレ(portrait)」という言葉を本書で初めて知った.本書は著者にゆかりのある故人たちの想い出を語るエッセイ集.ひとりひとりの追想ももちろん興味深いが,思いもよらない人どうしのつながり(そして場所とのつながり)が垣間見えてくる.それらの追想をこうして束ねられるのは著者ならではの仕事なのだろう.

ワタクシ自身も谷根千エリアに十年あまり棲んだのでそれなりにいろいろ想い出がある.今はなきある千駄木の飲み屋の “ポルトレ” はすでに活字になっている:三中信宏 2015.[新潟・酒かたり]かつて千駄木の路地裏に新潟の銘酒あり.cushu手帖(にいがた酒の陣2016準備号)pp. 81-83.その店では『路上のポルトレ』に登場する人物にも交わったことがある( “大正美人” とか “クレオパトラ” とか爬虫類の有名人とか).本書をひもとくと,時代と場所を越えて得も言われぬなつかしさを感じるとともに,ワタクシの記憶と経験とも響き合うところが少なくなかった.断片的であっても “ポルトレ” は書き残す価値がある.