『熱帯産の蝶に関する二,三の覚え書き』ジョン・マリー

(2005年1月20日刊行,ソニー・マガジンズisbn:4789724425



表題作「熱帯産の蝶に関する二,三の覚え書き」(pp. 7-74)を含めて100ページあまりを読了.これ,なかなかおもしろい短編ですねえ.全体としてはひとつのストーリーを成しているのだが,中は4つの節に分かれている:〈オオカバマダラ〉,〈アレクサンドラトリバネアゲハ〉,〈ハードウィックウスバとマハラジャウスバ — ヒマラヤのチョウたち〉,そして〈カバイロイチモンジ〉.チョウのコレクターをもって任じる3世代にわたる物語.小説らしい色づけがされているのはもちろんだが,ダーウィンやウォレス,そしてベーツなどチョウの擬態に関する進化学研究への言及が随所にある.Evolution誌が引用されていたりとか.場所的にも北米と南米はもちろん,ニューギニアインド亜大陸までひろがりをもつ.これ以上書いてしまうと,この短編小説のネタばらしになってしまうが,ひとつだけ:主人公たちが本職とする脳外科医療と密接に関連する“クールー”の話題がスパイスのように効いている.→参照:ロバート・クリッツマン『震える山:クールー,食人,狂牛病』(2003年11月10日刊行,法政大学出版局isbn:4588772015