『アジアの本・文字・デザイン』

杉浦康平(編著)

(2005年5月27日刊行,トランスアート,ISBN:4887521960



アジア各国のブック・デザイナー/タイポグラファーたちとの対談集.たいへん魅力的で,示唆に富む.終巻した『本とコンピュータ』の読者ならばすでにおなじみの顔ぶれが次々に登場するのは予想されていたことではある.数年前,銀座の〈ggg〉で,本書で言及されているアジアの本や雑誌類(韓国の『報告書/報告書』,台湾の『漢聲』など)の現物を手にしたことがある.それだけいっそう読後感が印象深かったのだろう.

しかし,後半の「インド・カリグラフィー」についての対談は初めての内容だ.インド文字の分岐図(p. 14),ハングル文字の morphospace(p. 106),ジョン・ケージの図的楽譜(p. 109),梵字の transformation series とその polarity(p. 272),インドの神々の系図(p. 306)など,心臓がドキドキする図像がたくさん登場する.

20近くもあるというインドの公用文字のデジタル・フォントをつくる話は,伝統的なカリグラフィーとつながっていく.その制作者は『クルアーン』の書き綴ったアラビア・カリグラフィーの美しさに驚いたと書いている(p. 287).そうだろうな.

マルジナリア —— 杉浦康平講談社現代新書のカバー装幀を35年間担当してきた(昨年まで).なるほど,うっかり見逃してきた./梵字の本を1952年に出版した「ロベルト・ファン・フーリク」という著者には,博品社から『中国のテナガザル』(1992年9月刊行,博品社,ISBN:4938706040)という本も出ている(きっと同じ著者だろう).博品社の解説には著者に関しての情報は得られなかったと書かれてあったが,「ライデン大学を卒業したオランダ人で,中国大使を勤めた人」(p. 273)だったそうだ.