『ダーウィンの時代:科学と宗教』

松永俊男

(1996年11月20日刊行,名古屋大学出版会,ISBN:481580303X



【書評】

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ダーウィンの時代における科学とキリスト教の関連を探る

本書のタイトルは『ダーウィンの時代』となっています。私は本書の新刊広告を見たとき、「またダーウィン本が出たか」と、はっきり言ってあまり気にとめませんでした。それくらい、近年になってダーウィン関連書籍の出版は相次いでいます。おそらく2009年のダーウィン生誕200年を頂点として、ダーウィン産業の隆盛はこれからまだまだ続くでしょう。

しかし、実際に手に取ってみると、本書はけっしてただの「ダーウィン本」ではありませんでした。序章も含め全8章から成る本書のうち、ダーウィン自身そして彼の進化論に関する記述は最終章だけです。むしろ本書の目標は、ダーウィンが活動していた「十九世紀イギリスにおける科学と宗教の関係に注目し、両者が自然神学によって一体となっていた状況から、それぞれ独立した別個の領域と認識されるようになったいった過程を追跡」(p.i)することにあります。

「本書の内容のかなりの部分は[キリスト]教会史に属」(p.375)しているという著者の主張からもわかるように、著者がとりわけ集中的に議論したのは、キリスト教に根ざした「自然神学」の系譜と、イギリスにおけるキリスト教内の教派対立がこれにどのように関わってきたかという点です。ダーウィンの進化論をはじめこの時期の生物学者や博物学者の研究活動は、キリスト教のさまざまな影響を直接的・間接的に受けてきたわけですから、本書の内容は私にとってたいへん役に立ちました。とりわけ、日本語の類書ではあまり取り上げられない、キリスト教会史についての突っ込んだ議論は参考になります。

三中信宏(6/March/2001)