『森有正先生のこと』

栃折久美子

(2003年9月25日刊行,筑摩書房ISBN:4480814558



センセイの鞄』よりもずっといいですなあ.1960年代半ばからの約10年間のことなので,過ぎた昔のことといってしまえばそれまでなのだが,あたかも二つの“星”が付かず離れず連動しているような雰囲気を醸し出している.ときには相対する二連星のように,またあるときは離れた彗星が長い周期で回帰するように.描かれている森有正センセイが,フランスから帰国したときに,決まって山の上ホテルを定宿としていたところなど,かつてこの日本にあったであろう文化を忍ばせる.センセイは世事に疎く(しかもよく喰う),クミコさんは世話焼きすぎか.