『一六世紀文化革命(1)』

山本義隆

(2007年4月16日刊行, みすず書房ISBN:9784622072867目次版元ページ



第3章「解剖学・植物学の図像表現」と第4章「鉱山業・冶金術・試金法」を読む.合わせて130ページほど.第3章では,博物学書における図の重要性が強調される.

ピン留めメモふたつ:1) 写本の伝承過程で文章がしだいに変容していくように,博物学書の図版もまた書写の過程で変容していったと著者は指摘する:




二つとして厳密に同一のものがないだけではなく,複製のたびにすこしずつ変容が加わり,それが積み重なって不正確になっていくという,手写本における図版の宿命的欠陥を,すでにプリニウスは見抜いていたのである.[……]複製により劣化する図像表現と劣化はしないが伝達能力のかぎられている言語表現というブリニウスの指摘したジレンマが解決されたのは,木版画が可動活字による印刷術と組み合わさって木版画による挿図の付いた書籍が作られるようになったときである.(pp. 204-205)



おそらく,写本の本文言語と添付図像はどちらも伝承の過程で生じたミスを受け継ぎつつ“劣化”していったのだろう.

2) 細かいことだが,ウィンザー城に長らく所蔵されていたレオナルド・ダ・ヴィンチの解剖図を調査したのは,ジョン・ハンターの兄のウィリアムだったそうだ(p. 195).このウィンザー手稿は確か岩波書店からものすごく高い価格の付いたリプリントが前に出版されたはずだ.

本章では,文字と図像の力関係に注目して論議されている.総括のことば:




それらの図版はテクスト(本文)を上回る伝達能力を有し,書籍における不可欠な要素の位置を占めているのであるが,それと同時に,言語の精密さや論証の正確さのみを問題とするスコラ的な頭脳労働だけではなく,視覚による伝達の精度を向上させる工房の手仕事・職人仕事の重要性を認めさせるものであった.(p. 242)



ここのところ,いくつかの重要な論点が相互に結びつけられている.注目したい.

続く第4章は冶金の話だが,これは前著:山本義隆磁力と重力の発見』でも詳しく論じられていた内容だ.